【連載】アーヤ藍の旅の『芽』【全6回】

韓国で一番外国人労働者が多い街の、共生への工夫

A Picture of $name アーヤ藍 2017. 1. 14

社会問題をテーマにした映画の配給を手がけるユナイテッドピープル、アーヤ藍の「旅」を通じた発見をお届けしていく「アーヤ藍の旅の『芽』」。

2015年6月訪ねた韓国。「せっかく韓国を訪れるなら、韓国社会が垣間見えるような場所に行きたい」と思っていたとき、映画『バベルの学校』でお世話になった善元幸夫先生(韓日合同授業研究会代表)の紹介で「安山市」を訪ねました。ここは韓国で最も外国人が多い街です。多様性の増す昨今、安山市のさまざまな工夫を紹介します!

高齢化と外国人労働者の活用。

それは日本でも切実なテーマの一つですが、そんな日本にとってヒントをくれる街が韓国にあります。

ソウル市内から電車で1時間ほどのところにある安山アンサン市。ここは韓国で一番外国人労働者が多い街です。

韓国では、2015年の時点で高齢化率が12%、2055年には30%になると見られています。一方で、出生率は1.1と、少子高齢化がどんどん進んでいます。そんな状況の中、国策として外国人労働者を積極的に受け入れています。

安山市に居住登録されている外国人は、2008年で3.8万人、2015年には約2倍の7万人に増え、居住登録をしていない人を合わせると、約80カ国からの移住者9万人が住んでいると見られています。

安山市に降り立つと、タイ、インドネシア、モンゴル、パキスタン、ロシア、ウズベキスタン等々の飲食店が立ち並び、さまざまな人種の人が歩いていて、韓国にいるのを忘れるようです。

(左)安山市の街。(右)日本ではなかなか見られないウズベキスタン料理のお店。こちらで食事をいただきました。

なぜ、安山市にこれほど外国人が集中しているのでしょうか。

一番の理由は「仕事がある」ためです。

もともとは農漁村地域だった安山市ですが、1970年代後半、ソウルに集中していた人口と工業を分散させる目的で、首都圏内の工業都市を建設する計画が立った際、安山市が選ばれました。1997年のIMF危機で、経済危機、人材不足に陥り、低賃金労働力として外国人労働者を雇うようになりました。現在、安山市の中には仕事紹介所がおよそ190カ所もあり、韓国の中でも一番、日雇いの仕事があるそうです。

そしてそんな安山市に暮らす外国人をサポートしているのが「安山市外国人住民センター」。同センターのJeong Myeong Hyeonに案内していただきました。

安山市外国人住民センターの外観。

このセンターが提供しているサポートがとにかくすごい! 一部ご紹介すると……

多言語図書館 さまざまな言語の本が1200冊設置されている。毎月1200人が利用。
無料診療所 週7日間開いている。特に受診者が多い週末に力を入れている。診察を行なう医師は全員ボランティア。薬も持ち寄りで診療している。
送金センター 毎月1万人が利用。Industrial Bank of Korea(IBK、中小企業銀行)は毎月4億円、大韓銀行は毎月10億円、それぞれ送金されている。
通訳相談センター 土曜日以外は毎日開いている。仕事中の怪我や、給料の不払い問題などがあった際に、通訳を介して相談に乗る。
多文化情報学習館 安山市周辺に住む韓国人の人たちが、ほかの文化を学ぶための施設。
グローバル多文化センター 宗教問題や子どもたちの問題を扱う。外国人2名、韓国人7名が常駐し、条例を作成したりしている。
朝鮮語の無料授業 毎年4000人が受講。
母国語教育 学生は無料、社会人は有料で受講可能。
職業教育、運転免許教育の無料提供 運転免許教育は母語で受けられるように体制を整えている。

(左)図書館の入り口。(右)通訳相談センターの一週間の対応言語スケジュール。

これでも厳選したぐらいですが、とにかくあらゆる面からのサポートを、しかもほとんど無料で提供しています。

Jeongによると、さらにこれらのセンターの活動は、14カ国48人(※2015年当時)の居住者にモニタリングをしてもらい、各国の人の評価を集めながら一層の改善を図っているそうです。

もちろんそんな安山市にも課題はあります。ホームレス問題に、ゴミのポイ捨てや不法投棄の問題、犯罪など。ただ、夜間監視などを行なうようになってからは、ゴミのポイ捨てや不法投棄の問題、犯罪は減ってきているそうです。

また、最も大きな課題といえるのが子どもたちの教育と、Jeongさんは言います。

韓国人と外国人の間に生まれた子ども、あるいは、外国人どうしの間に生まれた子が、安山市の中だけで延べ5,000人以上います。このうち学校に通っている子どもは、それぞれ33%と68%。韓国の学校では教えられないこと(母語・母文化等)を学ばせたいという親の意向があったり、宗教上の理由で肌露出の多い制服を着なければならない学校を嫌がるためだそう。

また、たとえ韓国語は習得できても、母国で各教科の教育をきちんと受けていない場合、結局授業についていけなくなってしまう子も少なくないと、Jeongさんは言います。

ただこの課題についても、家庭に訪問し、韓国語と母語の二重言語で教える取り組みが徐々に広がっているようです。

移住してきた人たちにとって住みやすい環境にするために、どんどん進化を遂げている案山市。なにより驚いたのは、これらの取り組み(サービス)の大半が、韓国人のボランティアによって支えられていること。韓国の未来を支えるであろう外国人労働者の人たちを、韓国の人たち自身がサポートする。

国策としてトップダウンで始まったものだったとしても、きちんと市民レベルの助け合いの輪に浸透していることを感じました。

(左から順に)安山市外国人住民センターを訪問する機会をセッティングしてくださったChoja Yunさん、私、お話を聞かせてくださった安山市外国人住民センターのJeong Myeong Hyeonさん、分かりやすい通訳をしてくださった藤田忠義さん。

日本に暮らす私たちも避けては通れない少子高齢化と、それに伴う労働力の減少。これから国としてどんな選択がなされるのか。そしてその選択に、私たち一人ひとりはどれだけ自分ごととして「参加」をしていけるでしょうか。

映画『バベルの学校』は、多文化共生をテーマとしており、安山市を知るきっかけでした。

アイルランド、セネガル、ブラジル、モロッコ、中国……。11歳から15歳の子どもたちが、世界中からフランスのパリにある中学校にやって来たところから始まる本作。

24名の生徒、20の国籍、そして24のストーリー。家庭的な事情でやってきた者、辛い母国の生活から逃れてきた者、亡命を求めてやってきた者、または単により良い生活を求めて移民して来た者など、理由はさまざまです。

フランスに来たばかりの彼らが入ったのは適応クラス。このクラスでフランス語を学び、話せるようになるための集中トレーニングを受け、やがては通常のクラスに移るために、ほかの教科も学びます。

国籍も宗教も家庭のバックグラウンドも違う10代の生徒たちが、異国の地・フランスで、言葉もままならない中、葛藤を抱えて新生活を始め、ときにぶつかりながらもさまざまな壁を乗り越えて友情を育んでいく ――そんな彼らの姿は、私たちに未来への希望を見せてくれます。

この記事のキーワード

Keywords

Sponsored Link
この連載のほかの記事

Backnumber

ほかにも連載

Find More Series