【連載】アーヤ藍の旅の『芽』【全6回】

キューバとペルーで感じた〈観光のジレンマ〉

A Picture of $name アーヤ藍 2016. 12. 17

社会問題をテーマにした映画の配給を手がけるユナイテッドピープル、アーヤ藍の「旅」を通じた発見をお届けしていく「アーヤ藍の旅の『芽』」。

今回は2015年の秋に旅をした、キューバとペルーで感じた「観光のジレンマ」について。もしかして、みなさんも感じたことがありませんか……?

キューバ

トリニダで出会った女の子

キューバといえば、昨年にはアメリカとの国交正常化で注目を浴びましたが、これまで半ば“鎖国状態”であり続けてきた国。一方で各国から観光客は絶え間なく訪れており、そこから生まれた”ギャップ”が様々な場所で見受けられました。

その大きな原因の一つは、国民のための通貨(CUP/ペソ)と観光客用の通貨(CUC/クック)の二重通貨制であること。どちらの通貨で商売が行われているかで、物価も売上も全く異なります。

観光客を相手にした宿泊業や飲食店は、“日本よりも少し安い”くらいの価格帯。これらの職に就いている人はCUCを入手でき、どんどん裕福になっていきます。一方、現地の一般市民向けのお店は、数十円で食べものや飲みものを販売しており、商売をする人たちも貧しい状態のままです。二重通貨が生む“格差”は随所で感じました。

そんなキューバで、特に印象に残った出来事が起きたのは、トリニダという、古都の姿がそのままに残っている町。旧市街そのものが世界遺産に認定されていて、中心部のほとんどが観光客向けの飲食店やお土産物屋さんで賑わっています。

そんなトリニダの中心部にある教会で佇んでいたとき、目の前の椅子に現地の女の子が座り、しばらくすると、私といっしょに旅していた友人たちに話しかけてきました。

とはいえ向こうはスペイン語で、言葉はほとんど理解できず。ボディーランゲージや片言の英語とスペイン語のやりとりで話しているうち、次の私たちの行き先に案内してくれるとのこと。誘われるままついていったところ、お土産物屋さんに到着……。

お土産物を買わせようとするわけではなかったものの、売られていたポテトチップスが食べたいという素振りを見せてきました。

そこまでいろいろ案内しようとしてくれたり、楽しくいっしょに笑わせてもらったこともあり、同行の友人たちがポテトチップスを彼女にプレゼントしたものの、なんともモヤモヤした気持ちに……。

観光地に生まれ育ち、観光客慣れした彼女は、きっとこの先も、同じような行動を繰り返すのではないか……。人から“恵んでもらう”ことが癖になり、当たり前のように感じてしまったら、この先の彼女のためになるのか……。それとも、彼女の行動は、ある意味でこの地で生きていくための上手な“処世術”としてみるべきなのだろうか……。

あのときに逡巡した思いは、いまも彼女の写真を見返すたびに沸き起こってきます。

ペルー

ウロス島で見られる「伝統的な暮らし」

一方、キューバのあとに訪れたペルーでは、チチカカ湖に面したプーノという田舎町へ足を運びました。目的は、葦だけでできた浮島のウロス島を訪れるため。

プーノの沖から船で移動して数十分、見えてきた光景がこちら。

奥の方に見える陸も、その上に立っている家も、湖の上にあるボートも、全部植物の葦でできています!

近づくとこんな感じ。

昔、スペインの侵略によってチチカカ湖湖畔に住んでいたウル族が追い出され、湖上で葦を活用して暮らし始めたのが、この島の起源といわれています。葦でできた島は50弱あり、数千人の人がいまも生活しています。学校や病院もあるのだとか……!

人間の生命力と創造力のたくましさを感じるこの島ですが、いまとなっては観光がなによりの産業。島に降り立てば、女性たちが手製のお土産物をすすめてきます。

島を発つときには、伝統的な歌を歌ってくれましたが、あまりにも「やらされている感」を感じてしまい、複雑な心境になりました。

観光業が成り立っていることで、彼らは生活ができていて、昔からの伝統文化も残り続けている。でも逆にいえば、観光があるからこそ、本来なら続けたくない、もしかしたら変化すべきものを、妨げてしまっているのかもしれない……。

「観光のジレンマ」に苛まれながら、葦でできた伝統的な船に乗ったところ、最初は女性が手漕ぎで漕ぎ出したものの、数分後には後ろにモーターボートがついて押し、半ば“電動運転”になりました。そのなんともシュールな光景は、いまでも忘れられません。

世界を旅していると、どんな土地であれ、少なからず同じような「観光のジレンマ」を覚えることがあります。ただ、明確な答えが出ないモヤモヤとした感情に向き合い続けることこそ、旅をするうえでは大切なことであるように思います。

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