【連載】古都フエで生まれるPhuhiepのものづくり ~女性アーティザンたちのサイドストーリー~【全8回】

ルンがついに出産!「誇り」という最高のアクセサリーを身につけて輝くPhuhiepのアーティザンたち

A Picture of $name Phuhiep 2014. 11. 28

「Phuhiep」のアトリエで仕事をするアーティザンは、トレーニー(見習い)やパートタイム、また管理部門のマネージャーやスタッフ等も含めて全員が、主に二十歳前から半ばまでの女性たち。彼女たちは皆、元船上生活者の家庭出身で、陸上での生活を余儀なくされた後、強制居住区で生まれ育ち、壮絶な環境下で生きてきました。彼女たちの祖父母や親の多くは安定した仕事を持たず、精神的な不安や無力感から、酒やギャンブルなどに溺れていく人も数多くいます。そんな中、いつでも家族を引っ張ってきたのは、女性たちだったと感じます。

女性はいつの時代も、強く、生きる。そして子どもを守ってきた

「Phuhiep」の女性アーティザンたちの家族に、その生い立ちや、これまでの人生の歩みを一つひとつ尋ね聞いていると、どれほど過酷な環境の中にあっても、過酷であればあるほど、その家族の行く末は女性たちの手に委ねられていたような気がします。

戦火を逃れ命からがら逃げて全てを失い、その現実に耐えられず蒸発してしまった夫に代わって、子ども3人を育ててきたおばあちゃん。不運にも子どもや夫を事故や病気で亡くし、高齢になって授かった末っ子女児を育てるために、陸地への居住を強いられた後も、徒歩で2時間掛け、遠く離れた市場に通い、日銭稼ぎのために、荷物持ちなどの力仕事をする50代の女性……。

必死に踏ん張って、どんな手段を取ってでも生きることと、子どもたちを育てることを決して諦めなかったのは、昔もいまも、女性たちの底知れぬ強さであったことを実に思い知らされるのです。

(右:Photograph by Ha Le、左:Image by Phuhiep)

(右:Photograph by Ha Le、左:Image by Phuhiep)

身近なロールモデルとなりつつある、「Phuhiep」女性アーティザンたち

「Phuhiep」最古参アーティザンの一人であるルンは、人懐っこくて人情味溢れる、19才の女性です。繊細な手仕事が特に得意な、安定感ある仕事で頼りになるアーティザンです。数年前までの彼女は、元船上生活者の居住区に住む、はにかむように幼い笑みを浮かべる、内気で痩せっぽちの少女でした。その彼女が「変わるんだ」という強い意志を持ち、その炎を消すことなく、6年間必死で食らいついてきました。

いま、安定した収入を得て暮らせるようになった彼女は、自分のことはもちろん、家族の食費も自分の収入で手伝い、洋服やヘアゴムなど少しだけ自分の欲しいものを買い、わずかながら貯金もできるようになりました。

毎朝彼女がアトリエへ出勤してくるときは、きちんと櫛で髪をとかし、清潔に洗濯をしたお気に入りの洋服に身を包み、きりっとした表情でやってきます。仕事場という、緊張感が必要な場に来るんだという、気概を感じます。その姿は、内職や不安定な日雇い労働がほとんどで、アルコールやギャンブルに明け暮れる大人の姿が当たり前だった、元船上生活者コミュニティの小さな子どもたちの目には、希望と憧れとして映っているに違いありません。ルンといっしょに働きたい! という女性がアトリエを訪ねてくるのです。

いまはまだ、勉強が最優先の女の子たち。それでも時折アトリエをのぞきにやってきては、お姉さんアーティザンの手先を興味深そうに観察しています。聞けば、ルンたちと一緒に早くここで働きたいそうです。(アトリエの窓辺から撮影、Phuhiep)

いまはまだ、勉強が最優先の女の子たち。それでも時折アトリエをのぞきにやってきては、お姉さんアーティザンの手先を興味深そうに観察しています。聞けば、ルンたちと一緒に早くここで働きたいそうです。(アトリエの窓辺から撮影、Phuhiep)

第二、第三の次世代のアーティザン育成中

そんな中、最近のアトリエは、いままで以上にガールズパワーに溢れています。実際に、
アトリエで仕事をする女性アーティザンやメンバーが少しずつ増えてきているのです!

ルンをはじめとする熟練のアーティザンたちのほかにも、彼女たちについて学ぶトレーニーを増やし、第二、第三のルンとなる次の「Phuhiep」アーティザンたちを生み出すべく、働きかけを行い、環境を整えているところ。その一つとして、基礎学習支援や衛生教育、マイクロクレジット支援などを行なう「HUE HAPPY PROJECT(注)」で開催している職業訓練ワークショップに参加する女性たちを増やしているところ。その参加者である女性たちが、時折ではありますが、アトリエに顔を出したりしています。

その中には、無職の夫と3才の子どもを支える家計の柱となるべく、アトリエの門を叩いた23歳の女性もいます。学校の授業についていけず、金銭的な問題もあってドロップアウトしてしまい、以来家事手伝いをしていたという10代の女の子もいます。


(注)「HUE HAPPY PROJECT」は、「Phuhiep」ブランドローンチ前の非営利の取組み。現在もその活動は、「Phuhiep」製品の売上の一部と賛同者の寄付により運営を続けています。

「誇り」という最高のアクセサリーを身につけて

先日、アトリエのみんなで、出産を終えたばかりのルンとルンのベビーに会いに行ってきました。ルンは、もうすっかり母の貫禄です。

元来、赤ちゃんを放っておかないベトナム人です。アトリエのアーティザンとスタッフ全員で代わるがわる赤ちゃんをあやしながら、きっとこれからますますアトリエはにぎやかに仕事をしていくでしょう。アトリエには、ご協力者のみなさまに譲って頂いた、ベビーベッドや抱っこ紐やガラガラなどのおもちゃとベビー服があります。ルンがベビーを連れて戻ってきたとき、安心して仕事に打ち込める空間づくりも、少しずつ進めています。

ルンのベビーが生まれました! 女の子です。(IMAGE: Phuhiep)

ルンのベビーが生まれました! 女の子です。(IMAGE: Phuhiep)

作り手であるアーティザンが、収入面でも仕事場の面でも、幸せと夢を感じられる優しい環境を整えていきたい。彼女たちがコミュニティのロールモデルとなり、「Phuhiep」のアトリエで働く体験を次世代へもつなげていきたい。そんな思いで運営してきたアトリエも、その思いを実現できる場になってきました。

でもまだまだ、その種は蒔かれたばかりです。種から芽が出て、だんだんと育っていく……まだ満開には至っていません。それでももう、彼女たちは可哀想な女の子たちではない。「誇り」という最高のアクセサリーを心にまとって、一歩ずつ進み始めたのです。

働く女性アーティザンの家族も人生もぜんぶ丸ごと一緒に抱え、友情と愛情を分かち合い、真摯にものづくりを追求していくーーそんな「Phuhiep」のアトリエでは、今日も女性たちがこつこつとアクセサリーを作っています。

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