【連載】Liv:ra 小森優美のライフスタイルD.I.Y【全10回】

本とデジタル

先日、出版社「ミシマ社」の代表、三島邦弘さんのトークショーに行ってきました。この「ミシマ社」。デジタル化の波押し寄せる出版業界の中で、印刷物としての本の出版を非常に大切にされている会社さんです。

そこでとても心に残ったお話があります。

ミシマ社では「みんなのミシマガジン」というアクセス・フリーのデジタルコンテンツを公開しています。このコンテンツは広告による運営ではなく、「みんなの」という名のとおり、サポーター制度を採用しています。サポーターにはコンテンツと同じ内容の月刊誌が月に1冊届くそうです。

すでにウェブで読んでいる情報を、再度紙にして印刷して届けるというのが、とてもおもしろいなぁと思いました。記載されている情報は、元は無料の情報で、いつでもどこでも見られるものです。理屈で考れば情報としては古いですし、わざわざ印刷する必要のないもの。しかし、それを本として欲しがる人は、実際にたくさんいるのです。

©Yumi KOMORI

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本はただの情報グッズ?

本はただの情報グッズなのでしょうか。もちろん情報を集めたくて買うわけだし、一冊読み終わる頃にはいつも素晴らしい情報を得ることができます。しかし、ウェブで見る情報と圧倒的に違うものーーそれは、五感で感じるものが大きいことではないかと思うのです。視覚を刺激するデザイン、ページをめくる触感、匂い……本を読むときも食事のときと同じように、感覚を総動員しているのかもしれません。

それに、「五感」には当てはめられないのですが(第六感と言っていいのだろうか)、「出版物=モノ」としてかたちにしたとき、著者、編集者、デザイナー、印刷屋、本屋……関わった多くの作り手の「気」のようなものが入っている気がします(実際、私も作り手として気を込めています)。「気持ちのこもったモノ」ってなんとなく分かりますよね。

だとしたら、本はただの情報グッズではなさそうです。

デジタルコンテンツの便利さ、すばやさを重宝する一方で、私はお気に入りの本は、本として購入しています。本だけではなくCDやDVDなどでも同じことがいえるのではないでしょうか。私たちは、無意識にモノを通して作り手と関わることを楽しんでいるのかもしれません。

技術の発展でなくなるもの、価値が問われるもの

話が変わりますが、三島さんはいずれ本も、人工知能が書く時代になるだろう、とおっしゃっていました。女子高生を主人公にして、ここであーしてこーして最後泣かせる……というストーリーの流れをインプットすると、そのとおりに書くことができるようになるというのです。

現代ビジネスに「2020年になくなる職業」(※「知ってましたか これが2020年のニッポンだ -わずか7年後、この国はこんなに変わる あなたの会社は消えているかもしれない『生き残る会社』と『なくなる仕事』教えます」現代ビジネス、2013年7月25日掲載が掲載され、話題になりました。いわく、誰もがすぐ思いつくような「誰でもできるであろう仕事」以上に、多くの仕事がテクノロジーの進化により消滅するそうです。

高城剛さんのブログでは、2035年には、無人の無料タクシーが現れる、と書かれています(※「2035年の世界」2014年10月23日掲載。こちらも大変興味深い意見です。

ロボットを代表とした人工知能の発展も目まぐるしい現代ですが、多くの仕事が人間からロボットやコンピューターに取って代わるとき、人間の役割とはいったい何になるのでしょうか?

私はその答えはどうも、さっきの「ミシマ社のミシマガジン」のお話とリンクするような気がしているのです。

システムはどんどん簡素化していき、無駄が省かれ、ますます便利になっていく。その一方で、機械的にはできない人との関わり合い(無駄なことも多々あるでしょう!)によって作られた作り手たちの「気」のこめられたモノの価値が上がっていく……そんな未来がやってくるのではないかという気がしています。

未来を考えるうえで、私たち個人の生き方としても、これと同じことが今問われているのではないでしょうか。

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