【連載】素材を知る旅〜真のラグジュアリーを求めて【全10回】

デザイナーにとって大切な素材がない! エシカルな素材選びが難しい

A Picture of $name 寺本恭子 2014. 4. 14

デザイナーにとって、素材選びはとても重要です。一口に「糸」といってもとにかく無数の糸があり、太さや形状、色に質感……各紡績会社が、技術とアイディアを駆使してさまざまな糸を開発しています。デザイナーの中には、素材に刺激を受けてひらめく方も少なくありません。

私は、素材からひらめくタイプではありませんが、自分の中に生まれたデザインをかたちにするためにも素材選びは重要です。同じデザイン画でも、素材によって雰囲気がガラリと変わります。ニットの場合、その編み機と糸の相性のようなものもあり、ハードウェアの面からも素材選びは大事です。今回は、デザイナーの私が、ニットを例にビジネスとしてエシカルなもの作りを続けていく中で感じている課題についてお話します。

太さ、形状、感触……糸には個性がある

専門的な話をすると、糸には長い繊維を梳いて作る梳毛糸(そもうし)と、短い繊維を紡いで作る紡毛糸(ぼうもうし)があります。編み地では、梳毛糸はさらっとクールな表情になり、紡毛糸はほんわかした温かい印象になります。それぞれ番手(太さ)によってさらに表情が変わります。ほんわかした紡毛糸でも細かいゲージの編み地に合う糸がありますし、クールな梳毛糸でもざっくりしたカウチンセーターの編地に合う糸があります。イメージする編地に合う番手を探さなければなりませんが、私が通常使用する番手だけでも10種類以上はあります。

太さだけでなく、形状も色々です。プレーンなものが基本ですが、きし麺の様に平べったい糸、太くなったり細くなったりするスラブ糸、ツブツブしたものが入っているネップ糸……。触感も、シャリ感、光沢感、ぬめり感、ふわふわ……挙げると本当にキリがありません。

素材バリエーション(ami-tsumuli 2013AWコレクションより)

素材バリエーション(ami-tsumuli 2013AWコレクションより)

限られたエシカル素材、表現の限界

通常だとこんなにたくさんある選択肢。しかし、エシカルではほとんど選択の余地がないのが現状です。なぜなら、各紡績会社は商品化のために、大きなロットで生産しなくてはいけないので、たくさん売れる見込みがある素材でないと商品化はできないのです。

いままで私が手掛けた、オーガニックコットンもオーガニックウールも、選択肢はほとんどありませんでした。ラメ糸をいっしょに編み込んだり、ハイゲージ(目の細かい編み地)にしたり、同じ糸を何本束ねてローケージ(目の粗い編み地)にしたり……さまざまな手法で質感のバリエーションを試みましが、やはり表現の幅に限界はあります。

同一のオーガニックコットン糸による表現のバリエーション(ami-tsumuli white label 「 Wearing Roses 」より)〈※○本どりというのは、○本の糸を束ねて編むこと〉

同一のオーガニックコットン糸による表現のバリエーション(ami-tsumuli white label 「 Wearing Roses 」より)
〈※「○本どり」というのは、○本の糸を束ねて編むこと〉

エシカル素材の色の悩み

需要の少ないエシカル素材は、紡績会社もリスクを回避するため、ほとんどが染めていない状態で販売しています。そこで、購入した人が染色工場に依頼して染めます。しかし、染色するには最低でも2〜5キロは染めないと染色釜を動かせず、10キロ以下の染色ではコストが割高になります。だからといって、たくさん染めても商品が売れ残る可能性もあります。エシカルな素材を仕入れて独自に染色するにしても、小さいブランドにとっては覚悟がいることです。

また、オリジナル染色のトップ糸が手に入らない問題を例に挙げてみましょう。私のブランドでは、奥行き感のある色が出せるトップ染め(※)のグレーやベージュの糸は必要不可欠な素材です。でも、エシカルだと思う原料を見つけてオリジナルのトップ染めの糸を作るのは、1色150キロ以上のロットが必要です。帽子にすると1500個以上! 残念ながら、現在の「ami-tsumuli」では、1色でそんなに大量の帽子を生産する見込みもなく、余った糸を在庫として持つ資金力もありません。そのほかの生産背景を考慮しても、現在ではほぼ生産不可能な状況です。
(※トップ染め:糸にする前のトップ〈ワタの状態のもの〉の段階で染めること。何色かのトップをいっしょに紡ぐことで、ミックス感のある糸を作ることができる)

限られた条件のなかでのデザインするのも楽しいけれど……

限られた素材条件の中でデザインをする。それもデザイナーにとってはおもしろい作業です。しかし私の場合は、自分の体の奥から湧いてくる世界観をいかに表現するかが、デザイナーとして最も大切なテーマです。エシカルな素材にこだわるあまり、思い切った自己表現ができないのであれば、きっと私の作品はつまらないものになり、お客さまにとっても魅力ないものになってしまうことでしょう。お客さまに喜んでいただけず、在庫として眠ってしまってはなんの発展もありませんし、それはそれで環境にむだな負担をかけていることになります。

デザイナー一人が変わっても意味がない

アパレル商品は、消費者に届くまでに多くの企業と多くの人が関わります。例えば、目の前にあるコットンのシャツを1枚とっても、
・綿の種子や肥料等を供給する会社
・綿畑の農家
・収穫した綿を洗って輸出できるように加工する会社
・それを買い取り紡績会社に売る商社
・糸にして生地にする紡績会社
・染色工場
・糸や生地を販売する商社
・その生地でシャツを作るまでのブランドMD
・デザイナー
・パタンナー
・縫製者
・生産管理の方
・バイヤー
・売場の販売員

……そしてやっと消費者に届きます。

私がいま思いつくだけでも、これだけの人々が1枚のシャツに関わっています。本当にエシカルで魅力あるアパレル商品を作り出すには、デザイナーが一人でエシカルを唱えても他の人が変わらなければ限界はすぐです。関わる人全てが、意識を変えていく必要があります。

エシカルとビジネスの両立のために

それでも誰かがアクションを起こすことで、少しずつ波紋が広がっていく手応えも同時に感じています。この波を広げていくには、根気強い信念と活動が必要だと実感しています。しかしその活動にはどうしても費用が発生し、それをまかなうための企業の継続的な利益も必要です。信念と経営感覚の両立がエシカルなビジネスには大切です。

私は、エシカルライン「ami-tsumuli white label」を立ち上げた後も「ami-tsumuli」のデザイナーとして、従来の作品作りを続けています。精神面とビジネス面において、私がエシカルラインを持続可能なものにするために必要な活動です。いつの日か、アパレル業界全ての工程に関わる人たちが、それぞれエシカルな意識でビジネスをするようになったとき、私が思い描く「真のアグジュアリー」なファッションが生まれるのだと思います。

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