【連載】過去・未来・空間……全てをつなげる araisaraインタビュー【全3回】

「1枚の服には無限の可能性がある」araisara interview #02

A Picture of $name HITOMI ITO 2012. 7. 2

【デザイナー:荒井沙羅】
中国北京出身。1997年中国でデザイナーデビュー後、日本に活動の拠点を移す。2008年新しい視点から東洋の伝統文化とファッションの繋がりを表現するプレタポルテライン「araisara」を立ち上げ、09-10 A/W より東京JFWにてコレクション発表。13SSからはパリコレクションに発表の舞台を移す。ブランドのコンセプトは『古き良きものを現代にそして未来へ……』。新しい視点から伝統文化とファッションのつながりを表現し、今の社会にファッションを通して夢を届け、未来の社会にファッションを通して文化を残したいと話している。

インタビューシリーズでは、日本・東洋の伝統技術とは何かを、経験と照らし合わせながら語っていただきました。

araisara 2012AW Yokihi

araisara2012AWコレクション「楊貴妃」

パリへ向けて

2012年3月22日、Japan Fashion Weekでの最後のショーを終えました。今回のショーでは、1つの服に宿る無限の可能性というのをテーマに、全てのルックを「九十九式羽織りジャケット」一型で展開しました。次回からはパリコレクションにて新作の発表をします。東洋の伝統の技術を世界に届けたい、と思っての決断です。

一型でコレクションを発表することとパリへ移ることを決めたきっかけは、1つや2つではありません。オートクチュールのデザイナーとして、何人ものお客さまと何枚もの洋服と関わる中で、何度も思ったことの集積でした。東洋の伝統技術のすばらしさは必ず世界の人に伝わると信じています。なぜなら、「1枚の服には無限の可能性がある」からです。そのことを教えてくれたのは、他ならぬお客さまでした。

今回は、服が持つ可能性を信じさせてくれた数多の思い出のうち、2つをご紹介しましょう。

イスラミックファッションウィーク

2011年の11月、「araisara」はマレーシアで開催された「イスラミックファッションウィーク」に招かれ、コレクションの発表をしました。招聘されたブランドは「araisara」と「KENZO」のみ。その他はマレーシアや台湾など、アジア各国のブランドが集まっていました。

言葉、文化、宗教、全てが異なるマレーシア。それに、イスラムの戒律によって、女性たちはファッションに制限があります。果たして「araisara」の服は、イスラミックの方たちに受け入れてもらえるだろうか? 伝統技術の魅力が伝わるだろうか? イスラミックの女性たちを美しくすることができるだろうか? さまざまな不安がありながらも、可能性を求めて参加を決めました。

araisara-islamic-fashion-week-1

当日は、ディナーショー形式で、マレーシアのスーパーVIPの方々も来られ、とても華々しいものでした。「araisara」は、当時の最新コレクションの2012年SS「昇」に限らず、これまでの発表作を全てミックスしたコーディネートを披露しました。

いざコレクションを披露すると、当初の不安はまったくの杞憂に終わりました。モデルさんがステージを歩き始めると、なんとみなさん、お食事中にもかかわらずランウェイのそばまで集まって見てくださったのです。ランウェイショーが終わった後も、会場でみなさんが笑顔で声を掛けてくださいました。それは、ランウェイショーの前に個別に私がお話ししていたときの笑顔よりも、さらにいきいきとした笑顔でした。

araisara islamic fashion week

araisara in Islamic Fashion Week

実際に身につけると、「着ると違う!」「時を感じる」などと言ってくださったり、「このへん(の模様)は、水ですよね。水に守られている感じがする」と言ってくださる方もいました。女性だけでなく、男性の方も進んで身につけてくださいました。しかもみなさん、とてもよく似合うのです。イスラム教という習俗の違いもあり、日本、東洋の伝統的なテイストが彼女たちの服装に合うのだろうかと心配だったのも、まるで杞憂で、驚くほどにみなさんの服になじむのです。「araisara」の服を合わせたりまとったりしながら楽しんでおられるみなさんの笑顔を見ていると、日本の伝統技術の美を伝えられたと思えました。

このとき、例え言葉が通じなくても、洋服は民族、宗教、言葉、空間の全てを超えて、人を感動させる力を持つのだと感じました。それを目の当たりにして、服というものは、ただ売る・買うというビジネスだけではなく、コミュニケーションの媒介となりうるのだと思いました。文化や宗教を超えたコミュニケーションの場に、服は役割を持って存在することができるのです。
これは、自分が服をやってきた原点が漠然とながらも見えた体験でした。

次はもう一つ、海を超えない身近な話です。

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