【連載】素材を知る旅〜真のラグジュアリーを求めて【全10回】

テキサス オーガニックコットン農場視察 体験記

A Picture of $name 寺本恭子 2014. 7. 14

オーガニックコットンの存在を知り、興味を持つようになってから、早15年。タオルや寝具には取り入れていたものの、ずっと自分のブランド「ami-tsumuli」では使うことを躊躇していました。その理由は「なぜ、オーガニックコットンを使うのか」という私なりの説明が、明確にできなかったことにあります。

なぜ、オーガニックコットンなのでしょうか? ーー肌に安心・安全だから? 環境に良いから? では、どんなふうに環境に良いの? ……こんな疑問が湧き、業界の諸先輩方にご意見を伺っていた時期がありました。

「本当に全てオーガニックコットンにしたら、生産性が下がり、とても世界中の需要にこたえられない」「オーガニックコットンは、通常のコットンよりも水をたくさん使用するから、エコではない。それよりも低農薬栽培を広めた方が現実的だし、環境にも良い」など、私にとって意外なお話もあり、ますます混乱しました。

そこで、「自分の目で、オーガニックコットン畑を見て感じてこよう!」と、以前からお付き合いをさせていただいていた日本オーガニックコットン協会の「テキサス・オーガニックコットン視察ツアー」に参加することにしました。今回は、そのときのお話をしたいと思います。

コットン生産地 ラボックに到着

2012年10月22日、成田発の飛行機でまずはダラス空港へ。そのまま国内線に乗り継ぎ、テキサス州北西端の町・ラボックを目指します。ラボックはコットンの一大生産地。国内線に乗って一時間ほどで、空の上からコットン畑が見えてきました。なんと畑が丸いではありませんか!

上空から見た畑の様子〈写真提供 (株)アバンティ〉

上空から見た畑の様子〈写真提供 (株)アバンティ〉

この地域はほとんど雨が降らないため、どこも地下水を汲み上げてスプリンクラーで水撒きをする灌漑農法なのです。スプリンクラーが時計の針のように丸い畑を一周するしくみとなっており、いくつもの大きな丸い畑が、どこまでも広がっていました。

夕刻、無事にホテルに到着。10月も終わりに近いのに、サングラスなしではいられないほどの強い日差しでした。

その夜、ウエルカムパーティーに招かれ、オーガニックコットン・ファーマーのご夫妻たちと夕食を共にしました。ファーマーたちは全員が白人。アメリカ南部は保守的な白人社会だったということを思い出します。オーガニックコットンはリスクが大きいため、その年に豊作の農家が不作の農家の分をカバーするシステムになっているそうです。そんなオーガニック栽培の困難を共にしているせいか、ファーマーどうしとても仲良しでした。

オーガニックコットンファーマーの方々〈写真提供 (株)アバンティ〉

オーガニックコットンファーマーの方々〈写真提供 (株)アバンティ〉

コットンの種と農薬のこと

翌日は、いよいよオーガニックコットン畑の見学。畑だけでなく、種のブリーディングの実験施設、種を取り除く工場、収穫した綿花のグレードを検査する施設など、いろいろな関連施設を回ります。まず訪問したのは、コットン畑。とにかく広い! 白い綿毛を実らせた、膝丈程のコットンが、青空の下、どこまでも続きます。

綿毛の部分は、果物で言えば果肉に当たるところで、タネを包み込んでいる部分に当たります。綿毛の中には、黒くて硬いコットンの種が入っており、この種を取り除く作業を「ジン(Gin)」といいます。収穫されたコットンは、まずジン工場に運ばれ、種を分離し、綿花は直方体の俵状態にしてます。オーガニックコットンの場合は、その種の中から優良なものを選び、また来年の栽培に使用します。通常のコットンだと、ほとんどが遺伝子組み換え種のため、種は特許権のある種会社に全て返却する義務があり、来年再び、種会社から農薬とセットで購入する必要があります。ちなみに、地球上のコットンの約80%が遺伝子組み換え種のものです。

コットンは食用でないため、農薬の規制も緩く、通常のコットンには大量の農薬が使用されていますが、その内容は、殺虫剤・除草剤の他、収穫をしやすくする落葉剤も含まれます。

「農薬は体に悪いのに、一般のファーマーの方は、自分の健康を心配しないのかしら?」

私は、コットン畑を歩きながら、隣にいらしたファーマーの奥様に尋ねました。

「みんな、安全だという企業広告を信じているのだと思うわ」

なるほどなぁ……と、遠くに見える広大な通常のコットン畑を見ながら、私はなす術もなく立ち尽くしていました。

コットンの品質検査施設にて

いくつかの施設を回った後、運ばれてきたコットンを俵ごとに品質検査をする施設にお邪魔しました。ここには、オーガニックか否かに関わらず、地域でとれた全てのコットンが集まります。ベイルから検査用サンプルとして抜き取られたコットンは、機械にかけられ、繊維の長さ、強さ、色などがチェックされ、等級が決められます。それによって、農家の納める価格が決まります。オーガニックコットンは、通常のコットンの約2倍の値がつくそうです。

栽培時に撒かれた農薬は、その後、製品になる前の段階などでほとんど洗い流されるそうですが、ここに集まってくるコットンは、まだ農薬が付いたままです。検査員の方たちはマスクも着けずに、その綿毛が舞う中で一日中働いています。たくさんの落葉剤などを吸い込んでしまっている可能性もあるでしょう。ここの従業員のみなさんの健康が心配になりました。

やっぱりオーガニックコットン!

まる一日の見学を終えて、私が感じたことは、「とにかくこれ以上、大切な大地に農薬を注がないでほしい! これ以上、遺伝子組み換え種を使わないでほしい! やっぱりオーガニックコットン!」ということ。

通常のコットンの服を着たって、私たちがすぐに病気になるわけではないけれど、大地を汚し、大切な微生物を殺し、生態系が崩れ、遺伝子組み換えの種が使われ、在来種の持つ力が忘れられていく……やっぱり不自然だと思います。そして、そのしわよせは誰かが被っていること。遺伝子組み換えの種は、ひとたび世界中に広まってしまったら、もう元には戻らないということを、私たちはいま一度認識すべきではないでしょうか。

〈写真提供 (株)アバンティ〉

〈写真提供 (株)アバンティ〉

移動中のバスの中で、ファーマーの男性に「オーガニックコットンは、通常の2倍の価格で売れるのに、どうして一般のファーマーはオーガニックに切り替えないのかしら?」と聞いてみました。「不作の可能性もあってリスクも高いし、とにかく労働がキツイんだ。みんな楽にお金を稼ぎたいからね」と、腕をさすりながら答えてくれました。

そのとき、GPS搭載のハイテクな収穫用の農機を拝見した際に「全部機械がやってくれるから、思ったよりはたいへんじゃないのかな」と思ってしまった自分が恥ずかしくなりました。

また、別のファーマーの奥様は、ご主人の代で農地を手放す予定だと淋しそうに仰っていました。息子さんはいるけれど、お父さんの苦労を知っているから、後は継ぎたがらないそうです。「もちろん、誰かオーガニックコットン栽培をしてくれるファーマーに譲るつもりよ」と、笑顔で付け加えていたのが印象的でした。

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