障がい者のアートを仕事に。「Able Art Company」が企業とのコラボレーションで生み出すダイバーシティ

A Picture of $name Rie Watanabe 2017. 8. 9

「かわいい」「クオリティがいい」——靴下の「Tabio」、通信販売のフェリシモのほか、大手百貨店やファッションブランドなどと商品開発を行い、アートを通じ障がい者を支援するAble Art Company(エイブル・アート・カンパニー)。

約100名のアーティストを抱え、著作権管理、プロモーション活動、マネージメントを行い、広報物からアパレル、小物まで幅広い分野で、個性あふれる作品を商品化している。

「アート作品」を通して、障がい者へのイメージを変え、私たちの生活の身近な存在にしたいと考えるAble Art Companyの取り組みを紹介する。

中塚翔子(なかつか・しょうこ)
芸術を学んでいた大学時代に、Able Art Companyの商品に偶然出会う。いつか活動に関わりたいと思っていたところ、求人募集を見つけ、2016年7月よりAble Art Company東京事務局で働き始める。主にアーティストのマネジメント事業に従事。

生きがいであるアートを仕事に。

日本で障がい者のアートに注目が集まったのは1990年代。それまで、障がい者による表現の価値は、十分な評価が得られていなかった。

Able Art Japan東京事務局の事務所も併設している「A/Agallery」では、アーティストたちの作品を実際に見ることができる。

1995年、その価値を伝えることで、障がい者の地位を高め、ダイバーシティな社会の実現を目指すため、Able Art Japan(日本障害者芸術文化協会〈当時〉)が設立された。

2006年、障がい者の就労機会拡大・社会参加を目的とした法改正をきっかけに、多くの福祉団体が活動をシフト。アートプログラムから仕事につながる下請け作業や食品づくりに変えていった。

アート活動を生きがいとしている障がいある人たちにとっての機会が失われていくことに危機感を持ち、「アートを仕事につなげよう」と、Able Art Japanを含む3団体による共同プロジェクト・Able Art Companyが、2007年に立ち上がった。

アート作品の著作権管理を軸としたビジネスモデル

従来の障がい者のアート支援は、展示会を開催するなど、作品を「見てもらう」ことが主流。「買ってもらう」ために考えだされたのが、作品の著作権管理を柱としたビジネスモデルだ。作品が、商品などにデザインとして使用されれば、より多くの人に「知ってもらう」ことが可能になる。

Able Art Companyでは、アーティストに代わり、企業などに営業・商談を行い、商品に使われる作品のロイヤリティ(使用料)をアーティストに還元している。

障がいのあるアーティストは、著作権管理や主張をすることが難しい場合が少なくない。作品が承諾なしに使われてしまうなど、これまでの芸術支援活動で起こっていた問題をクリアにし、アーティストの権利を守りながら作品を使ってもらうしくみです。

と、Able Art Company東京事務局の中塚翔子さんは説明する。

9年続く「Tabio」との『アートソックス』

2008年から現在も続いているのが、靴下の「Tabio(タビオ)」とのコラボレーション商品『アートソックス』だ。1年に約2回、限定商品として販売し、表参道ヒルズやKITTEなど東京や関西の一部店舗とオンラインストアで取り扱っている。デザインは毎回変え、お客さんにはリピーターもいるという。

きっかけは、奈良のAble Art Company本部事務局( (一財)たんぽぽの家)が主催する音楽祭に、長年にわたり協賛をしてくれていたことだった。

奈良に商品開発を行う部署があり、アーティストの作品を使って作ってみることに。当初は、Able Art Companyで販売する商品へのプロボノ協力だったが、靴下の評判を知ったISETANメンズ館とのコラボレーションを経て、「Tabio」で販売することに。〈福祉施設に対する支援=社会貢献〉は、クオリティの高さや人気から、事業に展開した。

2017年春夏コレクションは、4名のアーティストの作品を使った初のショートソックス丈だ。

タビオ株式会社/ショートソックス(左:mai『きになるトマト』、右:カミジョウミカ『影響し合う地球』)

ロイヤリティに+αプラスアルファ。フェリシモの「UNICOLART」

通信販売を行うフェリシモが、2014年に立ち上げた「UNICOLART(ユニカラート)」は、障がい者のアートをオリジナルテキスタイルにしたファッションブランドだ。

商品の売り上げの一部が全て、アーティストへのロイヤリティになるだけでなく、民間団体が行う障がい者のアート支援活動への寄付にもなる。寄付の使い道として特に、力を入れているのが「育成」だ。

すでに活躍しているアーティストだけでなく、作品を描き始めたばかりのアーティストの芽も育てる、ダブルの支援。寄付を通じて育ったアーティストの作品が商品化できれば、より事業とつながり、持続可能な循環ができると考えてくださっています。

「UNICOLART」の商品の一例。株式会社フェリシモ/ワンピース〈そうみ『無題』〉

ロングランのコラボ。秘訣は?

これまで多くのヒット商品を生み出してきたAble Art Company。最も重要な役割が「調整」だ。

作品が商品になるまでは、使用料、使い方や改変など、オリジナルの作品を尊重しながら商品のクオリティにも配慮し、何度も確認作業重ねていく。

精神障害のあるアーティストの場合、季節によって制作活動に波があることも。企業側とのリズムのギャップを調整するのも、Able Art Companyの大事な役目だ。

作品が商品になることをアーティストはどう受け止めているのか? 「お金もらえる以上に、作家として認められたことを喜んでいる。彼らは支援する対象であると同時にパートナー。彼らがいないと成り立たないプロジェクトなんです」と、中塚さんは語る。

「Tabio」も「フェリシモ」も、コラボレーションが長く続いている。秘訣を聞いた。

ほかのプロジェクトにも言えますが、担当の方がアーティストや作品のファンになってくれる。「Tabio」の場合、普段は挑戦できない柄で商品を作ることができるそうです。『社会貢献』以外でのモチベーションがあることがロングランの理由かもしれません。

もっとメジャーな存在に。必要なのは、他業界の巻き込み

障がい者アーティストを取り巻く環境に新しい動きがあるという。アーティストへの見方だ。

企業担当者や商品を購入した消費者が、「アーティストの方はどうやって絵を描いているのか、普段は何をしているのか」と興味を持ち、交流したいという声も増えているという。

日常生活の中で、彼らと一緒に楽しむ機会は少ないですよね。アーティスト側も結婚式やパーティーなどには出ない方も多い。障害のある人たちが社会に出ていくことを後押しする活動に、複数の企業と取り組んでいます。

中塚さんは、今後、障がい者が社会を構成する存在として当たり前になるためには、福祉業界以外を巻き込むことの重要性を指摘する。

活動に関わる担当者も変わるし、その企業がつながりを持つ消費者の見方も変えることができます。

今後は、大きなファブリックをやりたい。カーテンやインテリアで作品を使ってもらうことができれば、レストランやショップなどさまざまなところで使われ、一人の消費者に渡っていくのとは違う波及の仕方がある。多くの人の目に触れることで、「いいな」と思ってくれる人が増えてくれると嬉しいですね。

Able Art Company

【website】http://www.ableartcom.jp/

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