【アーティスト・片山真理 出産を控えてのロング・インタビュー】「手」について考えた2016年の3作品 〜そして再び幼い手を握る

A Picture of $name HITOMI ITO 2017. 3. 8

両足義足で活動するアーティスト・片山真理さん。両足とも脛骨欠損という主幹を成す太い骨がない病気を持って生まれ、9歳のときに両足を切断しました。以来、その自分だけの身体を介した世界との関わりを、作品にし続けています。

2016年、森美術館開館以来、3年に1度、日本のアートシーンを総覧する展覧会「六本木クロッシング2016展:僕の身体、あなたの声」出展を経て、年末には妊娠を発表した真理さん。その間は、さまざまな出来事が重なり、「手」についての作品を3つ発表しました。2本指の左手を持つ彼女が考えたこと、それを促した出会いとは? 出産を控えてのロング・インタビューを行いました。

子どもを授かって

そうした再認識や試みをしたタイミングで、我が子を授かったことは、偶然と呼ぶべきか、必然と呼ぶべきか、どちらでしょうか。

直島での発表が終わった2016年秋に妊娠が発覚し、体がみるみる変わっていく中、私はひどいつわりに悩まされていました。

つわりとは、異物に対する防衛反応でもあると、聞いたことがあります。自分の中に突如現れた異物。最初はその変化をどう受け入れればよいのか、戸惑うばかりでした。しかしふと、「これは『bystander』でやったことと同じだな」と、気づいたときから、少しずつつわりも落ち着いて、体の変化、来るべき変化への順応ができてきたように思います。

そうして怒涛の制作の日々が終わって、子どもを授かり、故郷である群馬に帰って作ったのが、『on the way home』でした。

『on the way home #001』

『on the way home #001』

制作も一段落し、しばらくは出産に向けて落ち着こうと思っていたので、とにかく「帰ってきた!」という感がありました。「群馬青年ビエンナーレ(2005)」に始まった私のアーティストとしての活動が、巡り巡って群馬に再び帰ってくることで、一段落したような気持ちです。

もし、本当に一人きりで自分だけしかいない世界で、ただ気持ちと手の赴くままにお裁縫をしていたら、きっと自分と他者との違いには気づかないでしょう。

しかし22歳で群馬から飛び出し、いろんな人と接触したり関わり合ったりして得てきたものがあり、それらを理解し吸収するために、次々作品が生まれました。

あの小さかった子どもの手は、たくさんの人との関わりの中でいろんなものを受け取りながら大きくなっていったこと。そうして、ますます手を伸ばせるようになったこと。大きく手を広げられるようになっていったこと。多くのものを抱きしめられるようになったこと。

――ずっとそうやって生きてきたんだな、というのを表現したいと思ったとき、『Living well is the best revenge』というインスタレーションのイメージが思い浮かびました。私が重ねた日々の繰り返しを、白いヌードクッションに重ね、直島で制作した“これまで作った全てオブジェの生まれる種”のような作品を、天井から吊り下げています。

(左)中央に見えるのが、インスタレーション作品『Living well is the best revenge』。(右)群馬県立近代美術館での展示「帰途」設営風景。“これまで作った全てオブジェの生まれる種”のオブジェを配置中。

写真作品『on the way home』では、手を連れて懐かしい道や川沿いを回りました。

『on the way home #002』

『on the way home #002』

回ったのは、全て私が昔歩いた道。「田舎から上京するときに使う道」だったり、「大学に行くときの道」だったり。全て、どこかへ通じていた道を、凱旋するように辿り直しました。

群馬青年ビエンナーレの開催される群馬県立美術館に帰ってきた! 『on the way home #008』

群馬青年ビエンナーレの開催される群馬県立美術館に帰ってきた! 『on the way home #008』

しかしきっと、「全く同じ場所」に帰ってきたわけではないし、戻ってきた私も変わっている。妊娠という大きな変化も遂げています。そして、再びこの場所から出発するときに、あの当時と同じところに向かっていくわけではない。そんな群馬で出産する自分が、「生まれた川に戻って産卵する鮭」のように感じ、川でも撮影しました。

川は「なにかを運ぶ場所」。次の制作のテーマも込められています。常に、“to be continued”でいたい。次は、新しい命の小さな手を携えて歩くのでしょう。彼女の手に、私の手が与えられるものはなんだろうか? と、最近は考えています。

『on the way home #009』

『on the way home #009』

片山真理

【website】http://shell-kashime.com/

1987年埼玉県生まれ。群馬県太田市で育つ。太田市立商業高校在学中の2005年、「群馬青年ビエンナーレ'05」(群馬県立近代美術館)で奨励賞受賞。2010年群馬県立女子大学文学部美学美術史学科卒業。同年「identity, body it. ―curated by Takashi Azumaya―」(nca、東京)に出品。2012年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。同年「アートアワードトーキョー丸の内2012」でグランプリ受賞。2013年「あいちトリエンナーレ2013」出品。2014年、小谷元彦個展「TERMINAL MOMENT」(京都芸術センター)に出品された《Terminal Impact (featuring Mari Katayama "tools")》に制作協力。2014-2015年、アーツ前橋の「地域アートプロジェクト」により前橋にて滞在制作。同時期に初個展「you're mine」(TRAUMARIS│SPACE、東京)開催。2016年は「六本木クロッシング2016」(森美術館、東京)、個展「shadow puppet」(3331ギャラリー、東京)、「瀬戸内国際芸術祭2016」参加企画「アーティスト in 六区2016 vol.3 片山真理 bystander」(宮浦ギャラリー六区、直島)、アートプロジェクトおかやま「片山真理展 セルフポートレートとオブジェ」(ルネスホール、岡山)と各地で作品を発表。ほかにも歌手、モデルとして、また執筆、講演など、多方面で活躍している。太田市在住。

片山真理「帰途」 Mari Katayama : On the Way Home

【会期】2017年1月21日(Sat.)〜3月20日(Mon.)
【場所】群馬県立近代美術館 展示室5(群馬県高崎市綿貫町992-1 群馬の森公園内)
【開館時間】9:30〜17:00(入館は午後4時30分まで)
【休館日】月曜日(3月20日は開館)
【詳細】http://mmag.pref.gunma.jp/exhibition/

同時開催 ■片山真理個展『19872017』
【会期】2017年1月21日(Sat.)〜3月20日(Mon.)※会期中無休
【場所】ガトーフェスタハラダ本社ギャラリー(群馬県高崎市新町1207)
【開館時間】10:00〜19:00
【詳細】http://rinartassociation.com/news/591

この記事のキーワード

Keywords

Sponsored Link
次はコチラの記事もいかがでしょう?

Related Posts