【連載】いいかげん選書【全13回】

うっかりポストに投函してしまう本

A Picture of $name 大野真司 Illustration: anne imai 2016. 10. 31

「突然街中に出現する本屋・劃桜堂」の大野がお届けする、すこぶるいいかげんな本の紹介。

いつの間にか、日常に「本」が忍び込んでくる……。

©anne imai

©anne imai

読書に熱中している人をよく見てみると、眼鏡を掛けていたりマスクをしていたりする人が多い。

読書のしすぎで視力が悪くなったのかな?
病弱だから本が好きになったのかな?

と、大抵の人は思うことだろう。

だが、これらは全て間違いである。

彼らはニヤニヤが止まらないだけである。

ニヤニヤを隠すために眼鏡やマスクを着用しているのである。

このままでは「本好き=ニヤニヤ」のレッテルを貼られてしまう。

ニヤニヤの原因は、本の楽しさを一人で味わっていることにあるのではないだろうか。

誰かと一緒に楽しめば健全な笑顔になれる(はず)。

というわけで、気持ちを伝えることの原点に立ち返り、「うっかりポストに投函してしまう本」をセレクトした。


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我が家のヒミツ

奥田 英朗(著)、集英社、2015年9月

家族の中にはドラマが詰まっている。

子どもができない夫婦、同期との出世のレースに負けてしまった53歳サラリーマン、16歳の誕生日に実の父親に会いに行くことに決めた女子高生。

なかなか家族どうしでも思いを言葉にして伝えることは難しい。

むしろ距離が近いからこそ言えないことも多くある。

そんな胸に秘めた各々のヒミツを、さまざまな登場人物の視点で楽しめる本である。

全ての秘密はバラされる運命にある。

私も以前台湾でオーバーステイして罰金を払わされた挙句(わざとではない)、その1月後に台湾にいったら入国禁止だった、という秘密をしれっとバラされた(SNSで)。

小説の登場人物のヒミツ、これは誰に向けてばらせばいいのだろうか。

これはもうポストに入れるしかないだろう。

しかし本を投函するなんて郵便屋さんは大迷惑だ。

みなさん、うっかりといえども絶対にポストに投函してはならない。

もう一度言う。絶対投函してはならない(フリではない)。


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ヤギ飼いになる―飼い方から実例、グッズ、ミルクレシピまで

中西 良孝(監修)・ヤギ好き編集部(編集)・平林 美紀(著)、 誠文堂新光社、2009年7月

表紙を見てお分かりだろうが、ちょっとした出来心からポストに投函してしまう可能性大の本である。

ヤギたちの無垢な瞳をみてあなたは確信したはずだ。

この子たち、絶対手紙食べる、と。

誰しも一度は14歳で、誰しも一度は中二病を罹患した時期があったはずだ。

ゆえに恥ずかしい手紙を投函したこともあるはずだ。

そんなときこの本があれば、きっと手紙が消えてなくなる。

内容としては牧場やペンションなどでヤギを飼っている人たちの物語である。

私は6畳1間のアパートに700百冊の本とともに生活しているが、ヤギ、飼いたいと思った。

自家製のヤギミルクチーズを作ったり、近所の小学生がヤギを見に来たりしてそれはそれは楽しいだろう。

しかし本が食べられてしまう。それでは生活に関わってくる。

難しい問題である。


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さあ、才能じぶんに目覚めよう ―あなたの5つの強みを見出し、活かす

マーカス・バッキンガム、ドナルド・O. クリフトン(著)、田口 俊樹(翻訳)、日本経済新聞出版社、2001年12月

過去の自分に憤ったことは皆さんも経験があるだろう。

仕事が終わってないのに寝落ちしてしまったり、大事な予定をすっぽかしてしまったり、変なポエムを書いてしまったり、衝動的に本屋さんを始めてしまったり。

そんな過去の自分へ、未来の自分から本が届いたらなにが一番ダメージが大きいだろうか ――間違いなくこの本である。

劃桜堂の中の人は、昔は世界は自分を中心に廻っていると思っていた。

自分は特別な存在で、才能に満ちあふれていると。

最近気づいた。すんません。気のせいでした。

バリバリのビジネスマンやカリスマ経営者が才能に目覚めるぶんには全く構わない。

ゆるふわ系ほのぼの本屋さんが、突然才能に目覚めてしまったらお客さんはドン引きだ。

ちなみにこの本は由緒正しいベストセラービジネス本である。

ゆるふわ本屋さんではない誰かのために、うっかり投函してしまうこと請け負いである。

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