【連載】我的上海的生活【全10回】

ファストファッションの現場で 〜価格は製造工程のバランスで決まるもの

A Picture of $name 斉藤 霞 2012. 10. 18

你好! 上海はすっかり秋の景色に衣替えしました。これを書いているときは中秋節と国慶節を目前に控え、街中が赤い提灯や中国国旗で飾り付けられとても華やかになっています! 日頃お世話になっている方々から月餅を頂いたり、休暇はどこへ行くのかなど楽しみな話題で持ちきりです。

こんな様子を読んだら「日本で報道されている日中問題や9月18日前後で起きた反日デモなど、どうしたのかな?」と思いませんか? 確かに一部の人たちは、理由は何にせよ、とても残念な行動をとってしまいました。しかし、日本のメディアが報道しているのはその一部だけだということを忘れないでほしい、と私は伝えたいです。実際に生活していたら街にはデモに参加していない人のほうが多いのです。私の職場のスタッフも、友人も、中国語の先生も、近所の人も、毎日通うスーパーの店員さんもいつもどおり声を掛けてくれています。逆にみんなとても心配してくれます。一部の人のとった行動に対して、SNSを使って謝罪する人さえいます。「個人で関われば、中国人も日本人も関係なく、ただの人間として仲良くできるのに……」そんなふうに、昨日も職場の同僚と話していました。

今回のことで私が学んだのは、現場で実際に体験することの重要性です。中国メディアや日本メディアがいくら対立するような報道をしても、実際に私のここでの暮らしは温かいものなのです。

ファストファッションの現場で考えること~一アパレルメーカーがエシカルを取り入れると?

現場で実際に体験することの重要性ということで、今回はエシカルファッションにはほど遠いファストファッションの現場で働く私が日々の仕事を通して考えることをお話しようと思います。私と同じような環境にいる方も、エシカルファッションに囲まれている方も、エシカルファッションについてあまり知らない方も、とにかく色々な方にこの現実をシェアして考えるきっかけになれば良いなと思います。


「エシカルファッションとは何か?」このサイトでもいくつかの定義を紹介していますね。それらを一企業であるアパレルメーカーが取り入れるとしたら? 大量なモノ作りをしながらも、それらしい雰囲気を簡単に表現できる方法は、エコな素材を使うことだと思います(ちょっと皮肉を込めた表現なのは、私のモヤモヤの原因でもあります。最後まで読んで一緒に考えていただけたらうれしいです!)

例えばオーガニックコットンを10%以上でも使えば、エコなファッションをうたう売場を作れます。それが長く続けられるサステナブル企画であれば、余力のある企業にはどんどん実行してほしいと思います。けれど、実際に最優先されるのは、何はともあれ製品コストと納期です。それにより、アパレル業界では、オーガニックコットンを使用して原料代が上がると2つの選択肢が生まれます。1つめは、価値ある商品として店頭販売価格を1000円UPして販売すること。2つめは、店頭販売価格はそのままでお求めやすくし、逆にデザインを簡素化し縫製工程を減らす、ボタンなどの付属品もチープなものにすることです。

オーガニックコットンを使うための選択、メーカーには「凶」?!

これを選んだ結果は……どちらも凶と出ることがほとんど、というのが実情です。例にあるお店で通常3800円で売っている商品、ここでは「12ゲージのベーシックなカーディガン」としてその理由を説明しましょう。

12Gカーディガンの例

あるアパレルメーカーで、オーガニックコットンを10%使用して店頭販売価格4800円で販売することになりました。きっと注目を集めるよう仲間の商品も作り、前面のテーブルで大々的なプロモーションをして販売することでしょう。しかし、ファストファッションという価格競争の激しいマーケットにおいてこの1,000円の販売価格アップは、売り上げを左右するとても大きな金額なのです。

なぜ左右するか? それは残念ながら、オーガニックコットンを使用した製品の価値観を全ての消費者が理解するほどのマーケットがまだまだできあがっていないことが大きな要因の一つです。例えばカシミアのように、明らかに手触りが違うなど、目に見える違いや肌に感じる具体的な効果があれば、1000円UPの価値はすんなり受け入れてもらえます。しかし、オーガニックコットンを使用しているということは、その表示でしか価値を伝えられないのが現実です。ですから、よほど意識の高い消費者かプロモーションにより興味を持った人にしか選ばれていないのです。だったら、「店頭販売価格をそのままにすれば売れるのでは?」と思いますよね?

だからといって……

しかしいくらオーガニックコットンを使用したといえ、簡素なデザイン、チープな付属品が付いてしまっては、全体の見た目大きく価値を下げてしまいます(そう見せないようにバランスをとるのが、ファストファッションを作るデザイナーとして腕の見せどころでもあります)。価格以上の価値が伝わらない商品であれば、やはりオーガニックコットンを使っていようがいまいが、「もっとかわいい3800円のカーディガン」のほうが選ばれてしまいます。

こうして「あまり売れなかった」という結果を招いてしまいます。売れなかったら「来年は別の企画で行こう」とすぐに切り替えることはよくある話です。こんな結果を目の当たりにするたびに、結局いっときの話題性として「オーガニックコットン」という言葉だけが利用されてしまったように感じてしまうのです。

同じような環境で企業デザイナーとして活躍されている方々は、このような場面に直面した経験がきっとあると思います。いまいる環境を劇的にエシカルファッションに変えることは難しいと私自身強く感じてしまいますが、日々の企画を考える段階で、少しでもそれがサステナブルな企画になるよう念頭に置きながら努力したいと思っています。いまは意味がないと感じていても、行動にしなければ何も変わらないですから。それらがいつか工場で働く人の意識や営業する人の意識、商品を手に取る人の意識も変えていくだろうと期待しながら。

現実を知らなければ、どこへ向かうのがこの世界にとって最善の道なのか分かりません。きっと私が日々もがいている現実の中にも世界をちょっとでも良くするヒントが隠されているはずだと信じています。

(注)価格は全て参考価格であり、特定の商品を指すものではありません。

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