【デザイナー寄稿・第2回】シンガポール発のエシカルブランド「ETRICAN」設立まで

2013. 12. 16

アジアでも急速に伸びつつあるエシカルなファッション。その実のところはどうなのでしょうか? シンガポール発のエシカルブランド「ETRICAN」のデザイナー/設立者である宇野有実子さんが3回にわたりシンガポールのエシカル事情とその中で奮闘する「ETRICAN」のものづくりについて寄稿してくださいました。第2回目の今回は、「ETRICAN」設立までの道のりについてです。

第1回目「シンガポールってどんな国? そのエシカル事情
第3回目「シンガポール発「ETRICAN」の工場選び、工場とのお付き合いの仕方

ETRICAN設立者の宇野有実子さん(左から4番目)

ETRICAN設立者の宇野有実子さん(左から4番目)

宇野さんとエシカルのバックグラウンド

最初にオーガニックやエシカルな買いものについて知ったのは、イギリスの大学時代でした。シンガポールのインターナショナルスクールを卒業した後にリーズ大学で国際関係と開発学を学んだのですが、その大学の生協がオーガニックやフェアトレード商品の取り扱いを始めたのでした。その頃は、フェアトレードマークが普及し始めたばかりだったので商品の幅は狭く、生協に置いてあるものもガーナ産のチョコレートのみでした。

大学を卒業後、オックスファムでインターンシップを行い、PR活動やショップ運営など幅広く活動しましたが、そのときにエシカルファッションについて初めて知りました。オックスファムのショップでは、寄付された衣料品をショップで売って利益を得ているのですが、衣料品のリサイクル現場でたくさんの無駄を目の当たりにしました。しかしこの時点では、まだファッション業界の裏側で起こっている搾取や環境破壊の問題に関しては知らず、インターンシップ後に日本に帰国してピープル・ツリーで働き始めてからでした。オーガニックコットンについて知ったのも、ピープル・ツリーの仕事で生産者のリサーチをしていたとき。BBCオンラインで通常のコットン生産者たちが高い殺虫剤を買わされて貧困に陥り、借金を返せずに自殺してしまった事件を読んだときは衝撃を受けました。

それ以来、エシカルではないその他のアパレルの会社ではどのようにものづくりを行っているのか興味が湧き、外資系のアパレル会社で生産管理や品質、新規カタログやウェブサイトなど幅広い分野で活躍しました。この時期に夜間学校に通い、デザインやファッション・ビジネスについて勉強しました。

インターナショナルスクールのカリキュラムの一つで学生たちのセミナー講師を担当するドラゴシュさん。


ドラゴシュとは大学時代からの知り合いでしたが、卒業後に彼が日本で働き始め、共通の友人もいたこともあり、会う機会が増えるようになりました。ドラゴシュはファッションに関しては興味がなかったものの、エシカルにたいへん興味を持っていました。いつか「私がエシカルブランドのオーナーだったら」という話を深く考えずにしていたところ、ドラゴシュが「お互いのスキルを合わせれば可能な話なので真剣にパートナーシップを考えている」と言われ、起業を考え始めました。

しかしエシカルやオーガニックが普及している日本ではなく、まだマーケットに伸びしろのあるシンガポールで始めることにしました。ドラゴシュの言語バリアもあるので英語でビジネスが可能ですし、東南アジアのビジネス拠点であるシンガポールでスタートすることによって、よりインターナショナルなビジネスを展開できると考えました。マーケットをリサーチするためにシンガポールを訪れたり、工場を調査して生産者を決めるなど、「ETRICAN」を設立する準備には約一年かかりました。

GOTS認証の工場を求めて

エシカルを証明するさまざまな認証がありますが私たちは特にGOTSにこだわり、メインパートナーとなる工場を見つけました。そのほかにもいくつか工場と提携していますが、GOTSを取得する途中のものもあります。たくさんの工場からサンプルを取り寄せて品質をチェックするほか、何時間もかけてコミュニケーションを取りながらパートナーとなる工場を選ぶのですが、信頼を築くのには時間がかかります。インドは業界の中でも(中国などに比べて)時間にルーズなことで有名ですが、期日を守れなかったためにやむを得ず取引を中止した工場もありました。いまだに「もう一度、一緒に頑張りたい」というメッセージを受けたりもしますが、一度信用を裏切られるとやはり躊躇します。たぶん私たちが幸運に恵まれたのでしょうが、現在のパートナー工場は規模が小さくとも一所懸命に頑張ってくださるプロ意識の高い方たちで、とてもやりがいを感じます。
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シンガポールに移って最初のコレクションは、ユニセックスとレディースのTシャツでした。まずはシンプルな品揃えから初めてお客様とコミュニケーションを取ることでマーケットのニーズを探るよう試みました。やはりお客さまは、エコやエシカルだからといって普段よりも高い値段の服は買いませんし、やはり男性よりも女性のほうが買いものを楽しんでいることなどが分かりました。これはシンガポールでなくとも、世界中で共通でいえることでしょう。その後、「若い人が気軽におしゃれにエコを楽しむ」というコンセプトで、お客さまの反応を受けて価格帯が低めのレディースコレクションへと移行しました。
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準備期間に行った会社を立ち上げるステップの一つ一つ全てが課題でしたし、エシカルやオーガニックがまだ浸透していなかったシンガポールで私たちのブランドのポジションを確立するのはとても長く苦しい道のりでした。満4年に達したいま、やっと安定してきたと思っています。これからさらに拡大するには現在の卸先との関係を大切にコミュニケーションを取りつつ、さらにネットワークを拡大し、一人でも多くのお客様に「ETRICAN」の商品を届けていきたいと思います。

ETRICAN

Website: http://etrican.com/
Online Shop: http://etrican.com/shop.html

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