【デザイナー寄稿・第1回】シンガポールってどんな国? そのファッション&エシカル事情

2013. 10. 3

アジアでも急速に伸びつつあるエシカルなファッション。その実のところはどうなのでしょうか? シンガポール発のエシカルブランド「ETRICAN(エトリカン)」のデザイナー/設立者である宇野有実子さんが3回にわたりシンガポールのエシカル事情について寄稿します。

第2回目「シンガポール発のエシカルブランド「ETRICAN」設立まで
第3回目「シンガポール発「ETRICAN」の工場選び、工場とのお付き合いの仕方

エトリカンデザイナー兼設立者・宇野有実子さん

「ETRICAN」デザイナー兼設立者・宇野有実子さん

始めに、私はシンガポール生まれ横浜育ちです。父が日本人で、母がシンガポール人。高校時代をシンガポールのインターナショナルスクールで過ごした後、イギリスに5年間留学。その後、日本に帰国してアパレル関係の会社で働きました。2009年にシンガポールに引っ越して「ETRICAN」を立ち上げ、現在に至ります。

「ETRICAN」を立ち上げた、2009年頃

「ETRICAN」を立ち上げる1年前、現地のエシカル事情を知るために有給休暇を取りシンガポールへ向かいました。イギリス在学時代のシンガポール人の友達と会い、オーガニックコットンのブランドを始めると話したところ「今始めるのは早すぎる。あと3~4年は待ったほうがいい」とみんなに口を揃えて言われました。当時のシンガポール人のエコやエシカルの認知度は皆無といってもよかったでしょう。それでも私たちは、認知度が上がったときでは遅すぎると考えてシンガポールで「ETRICAN」を立ち上げることにしたのです。

ETRICAN

「気軽におしゃれにエコを楽しむ」がコンセプト。手の届きやすい価格帯で展開するシンガポール発のブランド。

当時は学校や大学ではリサイクルについて触れることもあったようですが、ゴミ箱が紙・プラスチック・ビンに分別されるようになったのはここ2〜3年のことです。引越し当初、私たちの住んでいるコンドミニアムにリサイクル用のゴミ箱があるにもかかわらず実際にゴミの分別をする人たちは少なく、分別されたゴミ袋を持ってエレベーターで近所の方とすれ違うととても関心されてしまいました。

「ETRICAN」の立ち上げ1年目にある販売イベントで未だに覚えているエピソードが、お客さまに「オーガニックというのならオーガニックコットンは食べれるのですか?」と聞かれたこと。オーガニックといえば食べ物としか認知されていないのです。冗談だと思って笑っていたら、本人は真剣な面持ちで私の回答を待っていました。今となってはインタビューなどでお話しする機会に引用する笑い話になりましたが、当時は本当に落胆しました。ここまで知られていないとは思っていなかったからです。

2年目の2011年頃

シンガポールの人々に変化を感じ始めたのは2011年頃からです。ポスターやイベントなどに興味を示す方が増えてきたり、オーガニックやエシカルが何であるかを毎回説明しなくても分かる方が増えてきたりと、若い人たちを中心に認知度が上がってきた実感がありました。この変化のきっかけは、学校や政府がCM公共ポスターなどを使って「3R(Reduce, Reuse and Recycle)」などエコやリサイクルに関しての教育に力を入れていることからきているようです。

シンガポールのリサイクル広告の例(Via Flickr / Some rights reserved by HOK Network)

シンガポールのリサイクル広告の例(Via Flickr / Some rights reserved by HOK Network)

その他にも、メディアがエコやエシカルを取り上げ始めたことや、大型のショッピングモールや会社などが積極的にアース・アワー(決まった時間に一斉に電気をOFFにするイベント)に参加してきたことでそれが定着してきたことなどもあります。これは今ではとても大きなイベントとなり、エコに関するドキュメンタリーを紹介したり美術館やWWFとタイアップしたイベントも行われています。

「ETRICAN」もメディアに取り上げられる機会が多くなってきましたが、その際も単純に商品を紹介するよりもその裏側について、例えばGOTSやエシカルなものづくりについて取り上げられることが多くなったように感じています。他にも、オーガニックやフェアトレードをテーマにしたカフェやレストランも増えましたし、スーパーマーケットのオーガニックの商品を取り扱うエリアも拡大しています。じわじわと、エコが広まりつつあるのは感じます。

名物、マーライオン。右が通常点灯中、左がアース・アワー中。(©Photo By Suhaimi Abdullah/Getty Images)

名物、マーライオン。右が通常点灯中、左がアース・アワー中。(©Photo By Suhaimi Abdullah/Getty Images)

人々のエコについての意識がファッションにつながったと実感したのは、「H&M」の「Conscious Collection」です。シンガポールの「H&M」でも販売開始されてから2年ほど経ちますが、お客さまと話すと「『H&M』もやっている」と聞いたりします。現在シンガポールのファッションシーンは「安カワ」が主流で、その点では日本とあまり変わらないと思います。韓国製や中国製の安い衣服がたくさん出回っています。それに飽きてきている人たちもいますが、私たちにとってこのあたりの手頃な価格帯を維持することはとても大切です。手に取りやすい価格帯で、まずは使っていただくことが大事と考えているからです。

4年目の現在、2013年

シンガポール製のエシカル商品はアクセサリーがほとんどです。特にアップサイクルを取り上げた商品が多く、例えば古いレコードで作られたブレスレット(「theKANG」)、空き缶で作られたイヤリング(「Greenie Genie」)や古雑誌で作られた財布などです。アーティスト自身が手作りしたものが中心で、「MAAD」や「PUBLIC GARDEN」などの大きなフリーマーケットなどで見ることができます。

(左)、(右)ハンドメイドのアクセサリーブランド・KANGのバングル

(左)、(右)ハンドメイドのアクセサリーブランド「theKANG」のバングル

シンガポールでエシカルについての情報の広まりは急速に進んでいますが、これらの反応はまだ表面的なものです。なぜそれが問題なのか、その問題を解決するために私たちが何をしなければならないのかといった議論にまでは達していません。行動が変わるのはまだまだ先でしょう。しかし、今はまだそれでもいいと考えています。いまは「ETRICAN」も、知るきっかけを提供しているのだと考えています。

「ETRICAN」も4年目に入り、「ETRICAN」の商品を買ったことでエシカルについて学んだり、オーガニックコットンの上質な肌触りが好きという理由でリピートしてくださるお客さまも多くなってきました。販売イベントで、商品がかわいい、デザインが好き、プリントが良いという意見を頂いたときは嬉しく思いますし、そのような理由でお買い上げ頂いた後に、私たちの商品ラベルやサイトを見てエシカルとは何か、オーガニックコットンとは何かを知ってもらうことで、本当にエシカルな商品が普及していくことにつながると私たちは信じています。

ETRICAN

Website: http://etrican.com/
Online Shop: http://etrican.com/shop.html

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