オーガニックなbioRe®コットン扱い20年以上のCEOたちに尋ねる「オーガニックコットンビジネスの背景と未来」

2017. 4. 28

2017年3月。オーガニックコットンの生産から最終製品の製造まで一貫して行うスイス企業・Remei AG(以下、リーメイ)のCEO・Helmut Halker氏と、同社のインドでのオーガニックコットン生産を担うbioRe INDIAのCEO・Vivek Kumar Rawal氏が来日。

同社からbioRe®コットンを仕入れる日本のオーガニックコットンのテキスタイルメーカー・株式会社パノコトレーディング(以下、パノコ)が、両名を招いて「オーガニックコットンビジネスの背景と未来」と題したセミナーを3月27日に開催した。


セミナー「オーガニックコットンビジネスの背景と未来」の様子。(提供:PANOCO TRADING)



オーガニックコットンを含めたエシカルファッションが話題になって数年。オーガニックコットンビジネスの最前線と背景を知り尽くす2つの企業のトップに、オーガニックコットンビジネスの現状とこれからを尋ねた。

Helmut Halker氏×御法隆德氏に聞く、オーガニックコットンビジネスの「いま」

(左→右)株式会社パノコトレーディング代表取締役・御法隆德氏、Remei AG CEO・Helmut Halker氏、bioRe INDIA CO. Ltd.CEO・Vivek Kumar Rawal氏。

(左→右)株式会社パノコトレーディング代表取締役兼日本オーガニックコットン流通機構理事長・御法隆德氏、Remei AG CEO・Helmut Halker氏、bioRe INDIA CO. Ltd.CEO・Vivek Kumar Rawal氏。

―― オーガニックコットンを含め、エシカルファッションの動きがヨーロッパで活発になってから少なくとも10年以上は経ちました。現状のオーガニックコットン市場を率直にどう捉えていますか?

Helmut Halker氏(以下、敬称略): 「オーガニックコットンの消費は、まだまだ伸びる見込みです。アメリカでもオーガニックな食への関心から徐々に他分野に広がりつつあるし、ヨーロッパではいまも特に北部で伸びていると感じています。ただ、ヨーロッパ南部諸国ではあまり伸びていません。」

御法隆德氏(以下、敬称略): 「成長していると感じています。最近は大規模小売店さんもオーガニックコットンを取り扱いはじめているので、まだまだ成長の余地はあります。小売全体の売上が落ちている中で、オーガニックコットンというものが、避けては通れないもの、という認識が生まれていると思います。
パノコとしては、クオリティの高いテキスタイル作りに注力しており、新規のお客さまが増えてきています。海外ではプルミエール・ビジョンに出展を始め、結果が出てきています。風合いを気に入ったからと、わざわざ工場見学に来日されるデザイナーさんもいるほど。サステナビリティを重視するデザイナーさんが増えてきているのは確かです。」

―― メーカーにとっても、オーガニックコットンを素材に使うと製品価格が高くなってしまうことが壁になっています。この壁を打開するうえで、考えていることは?

Halker: 「メーカーと一緒にビジネスモデルを考えていくことが重要です。エンドユーザーにどうやってアプローチしていくのか、メッセージの作り込みはもちろん、成長戦略について、我々もメーカーと一丸となって考えます。
またリーメイでは、トレーサビリティに確固たる自信を持っています。原綿から最終製品まで、弊社で作ったものはすぐ川上を遡ることができます。我々はいつでもサプライチェーンを公開できますし、見たい・知りたいという人はウェルカムです。自らドアを開いていれば、自然と消費者やメーカーと強い信頼関係が作れ、一緒に市場を開拓していける手応えを感じています。
例えば、スイスが世界に誇る登山用品ブランド『MAMMUT』。彼らは長年我々にオーガニックコットン製品の製造を依頼してくれています。彼らとはサスティナブルな関係を築けていて、それこそがオーガニックコットンビジネスをする本懐だと感じます。」

ネームタグに印字されたQRコードを読み込むと、リーメイのウェブサイトで、どこの農場・工場で作られた服なのかが分かる。リーメイで作られた服には全てこのタグが付く。「消費者との誠意あるコミュニケーションのため」と、セミナーでHalker氏は話した。

ネームタグに印字されたQRコードを読み込むと、リーメイのウェブサイトで、どこの農場・工場で作られた服なのかが分かる。リーメイで作られた服には全てこのタグが付く。「消費者との誠意あるコミュニケーションのため」と、セミナーでHalker氏は話した。

―― オーガニックコットンを使うことは、消費者に対し、実際にどの程度アピールになると思いますか?

御法: 「日本でもトレーサビリティは“ウリ”になります。例えば『IKEUCHI ORGANIC』さんでは、タオルを食べものだと考え、工場の認証を取り、それをアピールしています。『安心・安全』で根強いファンを作っています。アパレル製品でトレーサビリティを確保しているところはなかなかないので、特に強みになると思います。」

―― オーガニックコットンについての理解を広めていくことは、どの程度重要だと考えていますか?

Halker: 「我々の活動について、メーカーにしっかり理解してもらうことは、非常に重要です。『これは売れる』と思えば、当然、メーカーは前向きになります。
例えば、CO2削減についての取り組み。前提として価格が魅力的でなければ取引は成立しませんが、そのうえで、我々が環境を大切にするためにCO2削減に取り組んでいることを理解してもらえれば、メーカーも心を開いてくれるという経験が多々ありました。
現実的な落とし所を探るうえで、例えばオーガニックコットンを使用する型数を減らしたり、1枚あたりの生地の使用量を調整したり、型数を増やして価格を下げたりなどすれば、最終製品の価格は調整できます。大きなブランドとも激しい議論を重ねることも少なくありません。しかしそうやって、一緒にビジネスモデルを構築し、成長ビジョンを描く意志と姿勢が重要です。だから、最高の意思決定権を持つ人を直接巻き込むことを意識しています。そうすれば、前向きな深い議論ができます。」

御法: 「ストーリーの背景を説明し、なおかつ、どんな生地を作るかに知恵を使わないと伸びないと思っています。ファッションではオーガニックに価値を見出し、お金を出す層がまだ限られています。オーガニックに価値を感じる方以外の方々にも買ってもらうには、風合いやデザイン性などを、いちアパレルメーカーとして考えていかなければなりません。『オーガニック』についての理解は、後回しになっていいんです。」

―― 反対に、オーガニックコットンを使いたいけれども、ロットの問題に直面するというデザイナーも少なくありません。

御法: 「弊社では、生地を作るときは、協力工場が設定しているミニマムロット以上で発注します。それをストックして、お客さまには一反から売っています。また、ネットでの販売もしています。
どんなブランドであっても、売れるためには工夫が必要です。例えば弊社が企画した某大手カタログ通販のパジャマ。こちらは3年前にモデルチェンジして以来、よく売れています。販売先のカタログの文章も一緒に考えました。我々はこれまでの経験を元に、アピールするところをアピールして工夫しています。ブランドを立ち上げる人も、それは努力しなければなりません。その意味でも、一緒にビジネスモデルを作っていく必要があるのです。」

タンザニアのオーガニックコットン畑にて。(提供:REMEI AG・PANOCO TRADING)

―― 2016年も、全世界で最もオーガニックコットンを使用しているのは『H&M』や『C&A』といった『ファストファッション』企業が1位・2位にランクインしました(※2)。こうした結果を見ると、一般的にいわれるような『ファストファッションは良くない』とは、言いきれない印象を受けます。ファストファッションについて、思うことはありますか?

Halker: 「確かに彼らは非常に努力をしています。ただ、多面的に捉えると、『悪いとは言わないけれどもサスティナブルとも言えない』というのが正直なところです。
彼らの高速サプライチェーンは、やはり労働者にとっては大きな負担です。常に追い立てられるうえ、『失敗は許さない』というプレッシャーを与えるのは良いとは言えません。オーガニックコットンもあれば一般綿のものも扱っており、もう一歩進みたいところです。次々とトレンドを生み出すことは、逆に言えば消費者を『飢え』させる行為とも言えます。頻繁にショップに通ってもらうことは大事ですが、バランスが必要です。」

御法: 「ファストファッションの場合、生産プロセスがなかなか表に出てきません。プロセスを可視化させていれば、納得がいきます。
リーメイ創業者であるパトリック・ホフマンの言葉に、いつも良い言葉だなと思うものが2つあります。一つは、『Ready to wear fashion, ready to be responsible(ファッションを楽しむなら、責任も持つつもりで)』。ファッションをデザインする人も、常に責任を持って物作りをしなければいけません。もう一つは、『Organic (Sustainability) is not label but attitude(オーガニックとはラベルではなく姿勢のこと)』。売る側も買う側も、それぞれがアクションを起こさなければなりません。」

―― オーガニックコットンを一般的にするのには、まだまだ長い道のりがありそうです。モチベーションになっているものは?

Halker: 「自分でインドやタンザニアの畑に行くと、自分がなぜこれをやっているのか、体に染み込んできます。インドとタンザニアで一緒に取り組む農家のみなさんやスタッフに尋ねれば、彼らが一番なんのためにこれをやっているのか分かっているのです。母なる地球のため、子どもたちの将来のため。そんな彼らと、どうやって物事を改善していくかを議論する時間は真剣ですし、確実に改善していきます。それが一番のモチベーションになります。」

御法: 「リーメイでは、毎年11月にインドでオープンハウスデーを開いていて、生産者と我々ユーザーの情報交換の機会があります。そこで、プロジェクトや現地の様子を実際に見聞きできます。すると生産者とバイヤーという感覚より、一緒の仲間という感覚がしてくるんです。そうなると、値段を叩く気になりません! 後で自分たちが売るときに頭を抱えてしまうんですけど(笑)。東京にいて、値段のことばかり考えるより、互いに知り合うこと。それがモチベーションになります。」

オープンハウスデーの様子。(提供:REMEI AG・PANOCO TRADING)

(インタビューここまで)

最後に、同席していたパノコのテキスタイルデザイナーのスタッフにも、「オーガニックコットンを続けるモチベーションは?」と尋ねてみた。

オーガニックコットンビジネスはエモーショナル。現場を全て見てきていて、その体験が動機になる。誰かを苦しませていないということもあるし、間違いないものを提供できているという自信もあるので、ストレスがない

「なぜ、オーガニックコットンなのか」。身も蓋もない言い方かもしれないが、それは頭で考えることではないのかもしれない。

ファッションはエモーショナルなもの。なら、その作り方も、エモーショナルでありたいと感じた。

※1、※2……Textile Exchange, "2016 ORGANIC COTTON MARKET REPORT"。

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