衣料品の有害化学物質ゼロを目指すグリーンピース「デトックス・キャンペーン」の狙い 〜過去の例から学び、代替案を必死で探す

A Picture of $name HITOMI ITO 2014. 7. 2

国際環境NGOグリーンピースの世界各国のオフィスが一体となって、化学物質による水汚染をなくしていく「デトックス・キャンペーン(DETOX CAMPAIGN)」。2011年7月から行われているこのキャンペーンは、スポーツ用品メーカーや、大手衣料品メーカーに対し、中国、インドネシア、メキシコをはじめ世界各地での化学物質による水汚染をなくすことを求めるものです。これを機に2014年現在、PumaやH&M、NikeやAdidasなど、世界に名を馳せる20以上もの大企業がデトックスを宣言しています。

このキャンペーンは、世界で過去に起きた産業による水質汚染が人々や環境に及ぼした被害をまとめ、解決策を提案した、2010年刊行のレポート「Hidden Consequences」を皮切りにスタートしたもの。さらに、中国に存在する河川・湖のうち、70%が汚染されており、さらにそのうち20%が産業による水質汚染だという報告や、世界中で作られる化学薬品の25%がテキスタイル産業で使用されているなどの他所からの調査報告もあり、グリーンピースではまず、中国の衣料品業界に着目したといいます。


グリーンピースは2009年、中国の衣料品製造において、中国の中でも衣料品製造が最も盛んな地域の1つ、珠江デルタ地帯付近で工場排水を調査。珠江デルタに排水を流す繊維加工場・Youngor社と、珠江の支流に排水を流すWell Dyeing Company社の排水をサンプリングしました。両工場は、織られたテキスタイルを染めたりプリントを施したりなどする染色仕上げ工場です。

アパレル製造工程概略図(後染めの場合)〈グリーンピース報告書 2011年7月13日発表「ダーティー・ランドリー ~衣料業界の不都合な真実~(Dirty Laundry)」を基に作成〉

アパレル製造工程概略図(後染めの場合)〈グリーンピース報告書 2011年7月13日発表「ダーティー・ランドリー ~衣料業界の不都合な真実~(Dirty Laundry)」を基に作成〉

それら工場の排水口付近の水をサンプリング。それらを、イギリスのエクセター大学内にあるグリーンピースの研究所と独立した第三者機関に送り、詳しく成分などを検査。すると、すでに欧州では禁止された物質を含め、多数の有害化学物質が検出されました。それらは人体に影響を与えるだけでなく、生分解性がないため環境中に蓄積することが分かっているものです。

サンプルを採取した時期に、2つの工場はどんな企業のアイテムに関わる生地を製造していたかを調べると、AdidasやPuma、H&M、Converseなど、誰もが知っている企業の名前が10社以上も見つかりました。そのうちいくつかの企業は、公式サイト上で、環境への配慮を徹底すると謳っています。グリーンピースから指摘を受けた企業のなかには、調査対象の工場ではテキスタイルの染色仕上げ加工を依頼していないと回答する企業もありましたが、どのような工程を依頼するにしろ、包括的な化学物質管理の仕組みを持っている企業はありませんでした。

危険の可能性があるものはあらかじめ使用を止める「予防原則」

河川・湖に有害化学物質が流入し、それを利用する人々に、仮にすぐに影響がなかったとしても、将来的には分からないので、環境NGOとしては「使用を止めましょう」と訴えています。

このように説明するのは、グリーンピース・ジャパンの高田久代さん。

衣料品・テキスタイルに使用される膨大な量の化学薬品が全てNGというわけではありません。しかし化学薬品は日々、世界中で何百と開発されています。たとえラボの中では無害だった薬品も、自然の中に放出されたとき、ラボの中で検証していない化学反応が起こったりする可能性も否めません。

企業の方々にこういったお話をすると「それでは、使ってはいけない化学物質を教えてください。それを禁止します」と言われます。しかし、我々が求めているのは全く違うことなのです。特定の化学物質がだめなのではなく、「ある特性を有するあらゆる化学物質をあらかじめ禁止してください」ということを我々は求めています。

(IMAGE: Courtesy of Greenpeace Japan) © Greenpeace

(IMAGE: Courtesy of Greenpeace Japan)© Greenpeace

ここで、2013年にUNIQLOを展開するファーストリテイリング社が発表した「ファーストリテイリング・グリーンピース間における排出ゼロ実現策へのコミットメント」を見てみましょう。同文書では、UNIQLOは冒頭で「すべての危険化学物質の排出量をゼロにする……」と述べています。この「すべての危険化学物質」とは、「すべての危険化学物質とは、次の固有の有害性を有するすべての物質を指します。難分解性・生物蓄積性・毒性(PBT)、極めて難分解性かつ高い生物蓄積性(vPvB)、発癌性・変異原生・生殖毒性(CMR)、内分泌かく乱(ED)、またはこれらに相当する懸念のある性質(他地域で規制または使用が制限されたものに限らない)。」と注釈があります。

これまでのこうした取り組みでは、危険化学物質の名称がずらっと一覧になって発表されることが少なくありません。しかし、企業とグリーンピースとの「デトックス宣言」では具体的名称はほとんど挙げてありません。危ない可能性があるものを、事後的に止めるのではなく、あらかじめ止めていくという宣言なのです。

これは「予防原則」という考え方に則ったものです。予防原則とは、「疑わしきは使用せず」ということ。人体・環境に影響を及ぼす可能性のある化学物質でも、「100%危険である」という科学的立証がまだなされていないものが、世の中にはたくさんあります。そこで「100%立証されていないから、予防的に止めましょう」とするか、「100%立証されていないから、まだ使おう」とするかという、考え方の分かれ道です。

ある化学物質が100%大丈夫/だめ、と立証されるには、どんなに少なく見積もっても20〜25年掛かります。それを待っている間に、取り返しのつかないことになってしまったらどうしようもありません。そこで、あらかじめやめておきましょう、と考えているのです。

Youngor社の工場排水のサンプリングを行うグリーンピーススタッフ。水が黄色く濁っているのが分かる。© Bo Qiu / Greenpeace(IMAGE: Courtesy of Greenpeace)

Youngor社の工場排水のサンプリングを行うグリーンピーススタッフ。水が黄色く濁っているのが分かる。© Bo Qiu / Greenpeace(IMAGE: Courtesy of Greenpeace)

これまで、世界中でさまざまな公害問題がありました。日本ならばイタイイタイ病や水俣病。それらの経済損失のほか、その環境を回復するためにどれほどの年月と努力が必要だったでしょうか。2010年のレポート「Hidden Consequences」では、事例を挙げて紹介していますが、それら過去の経験に学び、同じ間違いを繰り返さないようにしましょう、というのが「予防原則」の考え方。企業としての活動を否定しているのではなく、企業として活動していくということは、なにかしらの天然資源を使用し、環境と関わっているということを踏まえ、環境に対して悪いことはしないでほしい、とグリーンピースは訴えています。

企業の方に、「この物質の使用は違法なのですか?」と聞かれることもあります。しかし法律とは、ある事実・科学的根拠に基づき「これだけは守ってください」という最低限を示すもの。「法律を守って製造しています」というのは当たり前のことで、そこから先に進まないのは、「我々の会社は最低限しかやっていません」というようなものです。

宣言が促すもの

ファーストリテイリング社を含む企業のデトックス宣言は、最終衣料品の残留化学物質をゼロにするということではなく、製造過程での有害化学物質の使用をゼロにするというもの。すなわち、使用される機械を洗浄したりするための洗剤なども対象です。

(IMAGE: Courtesy of Greenpeace) © Greenpeace

(IMAGE: Courtesy of Greenpeace) © Greenpeace

また、ファーストリテイリング社が2016年7月までに100%、「Adidas」が2017年末までに99%(2020年までに100%)の製品で使用撤廃を宣言した「PFC類」(有機フッ素化合物)という物質は、撥水加工などに使われるものですが、傘やウィンドブレーカー、靴など、さまざまなものに使用される加工原料です。しかしこの物質には確立された代替できる化学物質がまだありません。それでも、企業は数年後にPFCフリーにすることを宣言しました。すなわち、これによって研究が進むということです。

一度壊れてしまった環境は、元に戻せないし、近いものに回復するにも膨大な時間とお金、努力が必要。そこで、過去の例から学ぶ姿勢を持ち、代替案を必死で探す。業界として、企業として、そして市民として、そういった姿勢を持つことが重要ではないでしょうか? ーーグリーンピースの「デトックス・キャンペーン」は、企業にそういった気づきと成長のきっかけをもたらすものなのです。

グリーンピースの「デトックス・キャンペーン」の概要とレポート各種はこちらから読むことができます

Website:http://www.greenpeace.org/japan/ja/campaign/csr/detox_water/

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