各国のフェアトレード事例に見る課題と可能性

2014. 4. 10

2014年3月28日〜30日の3日間、熊本市で第8回フェアトレードタウン国際会議が開催された。同会議は、世界および日本におけるフェアトレードの動向とその行方を議論し、明らかにしようとするシンポジウムである。2007年の初開催以来、ほぼ毎年ヨーロッパで開催されてきたが、第8回目となる今回は、2011年6月にアジア初のフェアトレードタウンとなった熊本市で開催された。

世界のフェアトレード運動を牽引してきた二大組織、世界フェアトレード機構と国際フェアトレードラベル機構のトップをはじめ、フェアトレード運動のリーダーや研究者約20名が一堂に会する貴重な機会となった。写真は、フェアトレードタウン運動の創始者ブルース・クラウザー氏。くまもんのうちわを持って。

世界のフェアトレード運動を牽引してきた二大組織、世界フェアトレード機構と国際フェアトレードラベル機構のトップをはじめ、フェアトレード運動のリーダーや研究者約20名が一堂に会する貴重な機会となった。写真は、フェアトレードタウン運動の創始者ブルース・クラウザー氏。くまもんのうちわを持って。


今回は、海外20カ国と地域、フェアトレード・フェアには3日間で2,000人、ファッションショーへは200人、会議には1日300人、計およそ600人(延べ)の参加者があった。3日間にかけて行われたこの会議について、2回に分けて紹介していくが、第1回目の本記事では、初日のプレイベントで紹介された各国のプレゼンテーション事例を紹介したい。

本会議は、アジアでの開催とあって先進国のフェアトレードタウン運動創始者や認証機関代表者だけでなく、生産者・生産国の参加が特徴になっており、ブータンやミャンマーなどのアジア諸国、タンザニア、内モンゴル自治区、ラオス、フィリピン、カンボジア、バングラディッシュ、マレーシア、ザンビア、エクアドルなどの国が、フェアトレード商品を販売したり、各国からの生産者プレゼンテーションも行った。そこで紹介された数々の事例から、フェアトレードの可能性とその課題について考えるきっかけとなった。

「幸せの国」にも近代化の波 「フェアトレード」で立ち向かう

例えば印象的だったのは、初日・28日のプレイベントでの辻信一氏(明治学院大学教授)とペマ・ギャルボ氏(ブータン・チモン村の生産者代表)によるトークショー。ペマ・ギャルボ氏は、ブータンの民族衣装「ゴ」を着て登壇。この「ゴ」は、かつて全てオーガニックコットンの手織りで作られていたそうだ。ブータンで伝統的に行われていたコットン栽培と手織りの技術が近代化とともに衰退し、現在は近隣諸国から遺伝子組み換えコットンを栽培しているところが増えてきているという。ペマ・ギャルボ氏自身は観光業を営んでいるが、ご両親はチモン村でオーガニックコットンを栽培し手織りで生地を作っている。そこで辻信一氏が、伝統文化の保存と現地の雇用のためにフェアトレードのオーガニックコットン・プロジェクトをスタートさせたという。「幸せの国」と称されるブータンにも近代化による問題があることが印象的だった。

トークショーの様子。右のスクリーンに写っているのが「ゴ」

トークショーの様子。右のスクリーンに写っているのが「ゴ」

ザンビアのバナナが日本の和紙技術で商品に

また、ザンビアのバナナペーパープロジェクトも印象的だ。バナナは成長して果実がなると、そこから新たに実をつける前に切られて廃棄されるという。その後新たな茎が出て再度成長し、5〜6カ月で実をつける。バナナペーパーは、この廃棄されるバナナの茎の繊維を使い、日本の伝統的な手漉き和紙の技術を用いて作られているもの。

IMAGE: Courtesy of(株)ワンプラネット・カフェ

バナナペーパーのシマウマのメモパッド(IMAGE: Courtesy of(株)ワンプラネット・カフェ)


ザンビアを含むアフリカには、先進国による不平等な貿易が原因の深刻な貧困問題が存在しているが、このバナナペーパープロジェクトは、多くのアフリカの平均給料がわずか1~2ドル(国連調査)という現状をフェアトレードで解決しようとするものだ。現地でオーガニックバナナの茎から繊維を取る方法が指導され、日本の個人、会社、団体がバナナペーパーを注文すると、適正な価格が支払われる。一つの大手企業の注文が、1つの村を1年間救うことができるという。環境に配慮し教育の支援もつながるフェアトレードの将来に強く期待を感じた。

フェアトレードの課題

1階フロアでは、各生産国のフェアトレード商品の販売があり、入場料も無料だったため大盛況となっていた。ラベル認証の有無にかかわらず、フェアトレードの理念に則ったシンプルながら魅力のあるもの、国を感じる独特な色が鮮やかなものなど、さまざまなプロダクトが揃っており、いずれもクオリティが高く、十分マーケットで通用するものに感じた。

ただし、その背景には一筋縄ではいかない問題が山積している。アジア各国は手織りなどの伝統的な手作業を得意とし、フェアトレード製品の原材料から生産工程まで現地で行っている国も多い。日本でも人気のアジアのバッグや小物類は、デザインや機能性の面で意見が分かれて出荷が遅れるトラブルがあるという。例えば、長持ちさせるために傷みやすい角の部分の補強や裏地を付けるなど、品質について理解してもらうまでがたいへんだ。しかし、これは良い商品の生産という結果にもつながっている。相互に理解していく作業が難しい。

他方アフリカでは、主にシアバターやバナナ、コーヒーなど原材料のフェアトレード品が多いのが特徴だが、政情が不安定な地域では輸送に遅れが出ることもあり、市場に乗せるまでがたいへんだという。

各国の色鮮やかなフェアトレード商品

各国の色鮮やかなフェアトレード商品


途上国では教育と雇用が、貧困解決に向けての課題となっている。同時に、環境と生物多様性も守らなければならない。草の根から始まった市民運動で解決できるのだろうか? 国ごとに異なるさまざまな課題に対し、どうアプローチをしていくべきか? さまざまな疑問と多すぎる課題に、頭が混乱してくるほど。まさに、「地球の課題」を感じた一日だった。しかし国際協力だけでなく、ビジネスとしてのフェアトレードの広がりも垣間見ることができた。

2回目の次回は、この運動を広めるアプローチとして会議で注目された「ビッグ・テント・アプローチ」を中心に、フェアトレードを広めるために必要なことを考えていきたい。


Text&Images by: Keiko OKUDA

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