【連載】ダイヤモンドの輝きの秘密【全4回】

ダイヤモンドの輝きの裏側への旅

A Picture of $name 村上 千恵 2015. 2. 6

はじめまして。「Peace Diamonds(ピースダイヤモンド)」ファウンダーおよび非営利団体ダイヤモンド・フォー・ピース代表理事の村上千恵と申します。今日から4回にわたり、ダイヤモンドにまつわるお話やその背景について連載させていただきます。

第1回目の今回は、西アフリカのシエラレオネを例に挙げ、ダイヤモンドにまつわる問題・課題・背景をお話ししようと思います。

シエラレオネで見た風景

2012年5月、私は西アフリカのシエラレオネを訪れました。そう、昨年からエボラ出血熱で大変なことになっているあのシエラレオネです。なぜシエラレオネなのかというと、映画『ブラッド・ダイヤモンド』で舞台になった国が、その後どんな状況になっているのか自分の目で確かめたかったから。

最初に感じた違和感

首都フリータウンからコノまで乗り合いバスに揺られ8時間。そのうち、道路が舗装されていたのは最初の3分の1程度。舗装はEUの支援で行われたと看板に記載がありました。

そしてシエラレオネで最大のダイヤモンド採掘地域・コノに到着。ここのメインストリートも舗装されていません。雨季(5月~11月)の移動はかなりたいへんそうです。

コノのメインストリート (Photography:Chie Murakami, 2012, Kono, Sierra Leone)

コノのメインストリート(Photography:Chie Murakami, 2012, Kono, Sierra Leone)

シエラレオネは2011年には、約124億円(約36万カラット)、2013年には約187億円(約63万カラット)のダイヤモンドを産出・輸出しています。内戦を終えた2003年以降、シエラレオネのダイヤモンド産出額・輸出額は拡大傾向にあり、2010年以降毎年100億円以上を産出・輸出しています*1。ダイヤモンド採掘で多額の利益をあげているはずの地域が、なぜこんなにも整備されていないのか不思議に思い、調べてみました。

すると、採掘で得た利益のほとんどは、外資系採掘企業により国外に持ち出され現地に落とされていないことが分かったのです。デンマークのNGOであるDanWatchは2011年、外資系採掘企業は、(a)事前にシエラレオネ政府と合意した税優遇措置、(b) タックスヘイブン等のさらなる減税のしくみを利用し、シエラレオネ政府への納税額を極端に少なくしていると発表しています。例えば、シエラレオネ最大の外資系ダイヤモンド採掘企業の1社であるKoidu Holdingsは、2010年推定24億円相当のダイヤモンドを輸出。対してその年、同企業がシエラレオネ政府に支払った金額は合計2.3億円。その大部分が土地等の使用料であり、法人税額はゼロだったとのことです*2

零細採掘労働者の様子

ダイヤモンド採掘をしているのは大がかりな機械を用いて採掘する外資系企業だけではありません。シエラレオネには鉱物資源以外の産業がほとんどないため、多くの人々が零細採掘労働者として働き、必死にダイヤモンドを探しています。

ダイヤモンド採掘の様子。(左)バケツリレーで採掘したダイヤを運ぶ。(右)ウォッシングの様子。〈 Photography:Chie Murakami, 2012, Kono, Sierra Leone〉

ダイヤモンド採掘の様子。(左)バケツリレーで土を運ぶ。(右)ウォッシングの様子。〈Photography:Chie Murakami, 2012, Kono, Sierra Leone〉

このような小規模な採掘現場では、
1. 土を掘りバケツリレーで土を運び、
2. 水があるところでウォッシング(ざるに土を入れ、光るものがないか探す)をします。

零細採掘労働者の人々に聞いたところ、1日の賃金は約50円。国連の極度の貧困の定義は1日あたり$1.2(約120円)なので、その半分にも満たない額です。アフリカは多くのものを輸入に頼っているため物価が意外と高く、この金額で家族を養っていくのは非常に難しいと感じました。

児童労働と環境破壊

近年、ダイヤモンド鉱山で働く子どもの数は減ってきているようですが、なくなったわけではありません。コノからバイクで30分程行ったところの採掘現場でも、13歳の少年が働いているのを目撃しました。

採掘現場で働く13歳の少年(左端)〈Photography:Chie Murakami, 2012, Kono, Sierra Leone〉

採掘現場で働く13歳の少年(左端)〈Photography:Chie Murakami, 2012, Kono, Sierra Leone〉

国際労働機関(ILO)によると、児童労働とは「身体的・精神的発達を妨げるような、原則15歳未満の子どもが行う労働」のこと。鉱山での労働は特に危険度が高く、18歳未満の子どもは働くべきでないとしています。

ある調査によると、数千人の10歳~17歳の男子がシエラレオネのダイヤモンド鉱山で働いており、彼らの半数がコノで週6日、毎日8~10時間も働いているとも。また、土を掘り運ぶことを繰り返すことにより背中や胸を痛めたり、蚊を媒介とする病気への感染リスクが高いと述べています*3

さらに環境への影響も懸念されます。ダイヤモンドを探すには土を掘りますが、掘り進めると水が地中からしみ出して池になります。ダイヤモンドを掘りつくし、ほかの地へ移動するとき、本来ならこの池を埋めるべきですが、シエラレオネでは行われておらず、いたる所で放棄された池を見ました。埋めない理由は、それによって直接的な金銭的利益を得られないからのようです。このように池が放置されていると、土地を有効活用できないばかりか危険です。

放棄された池(Photography:Chie Murakami, 2012, Kono, Sierra Leone)

放棄された池。(Photography:Chie Murakami, 2012, Kono, Sierra Leone)

どうしてこんな状況が生まれているの? 2つの大きな問題

No.9という名前のダイヤモンド採掘所。これも採掘によってできた人工池。(Photography:Chie Murakami, 2012, Kono, Sierra Leone)

No.9という名前のダイヤモンド採掘所。これも採掘によってできた人工池。(Photography:Chie Murakami, 2012, Kono, Sierra Leone)

毎年100億円以上のダイヤモンドを産出・輸出するシエラレオネですが、国連開発計画による最新の人間開発指数は187か国中183位。ーーこれに違和感を覚えるのは私だけでしょうか?

問題の構造

ここでダイヤモンドにまつわる問題を整理してみたいと思います。ダイヤモンドに関する問題を2つに分けてみましたーー(1)労働者が抱える問題と(2)業界が抱える問題です。

児童労働、環境破壊、紛争、強制労働・暴力等人権侵害の根本的な原因は、極度の貧困だと私は考えています。貧しい家に生まれたため学校に行けない/途中で退学してしまう→十分な教育を受けていないため単純労働にしか就くことができない→単純労働のため賃金が低い→貧しいまま……という悪循環に陥っています。そしてこの悪循環は世代を超えて親から子へと受け継がれていきます。

ダイヤモンドをとりまく問題の構造(筆者作成)

ダイヤモンドをとりまく問題の構造(筆者作成)

次回は、今日お話したような状況で採掘されるダイヤモンドがなぜ通常のダイヤモンドのサプライチェーンに入ってきているのか、サプライチェーンの問題点、そして紛争ダイヤモンド*4を抑制するためのキンバリープロセス認証制度の課題(図のうち「(2)業界が抱える問題・課題」にあたる箇所)を詳しくお話していきます。


*1キンバリープロセスの統計資料を基に計算(1ドル100円換算)。http://www.kimberleyprocess.com/en/sierra-leone
*2 “NOT SHARING THE LOOT” Sarah Dieckmann, DanWatch, 2011
*3 “Digging in the Dirt: Child Miners in Sierra Leone’s Diamond Industry” The International Human Rights Clinic at Harvard Law School, 2009
*4「紛争ダイヤモンド」……別名「ブラッドダイヤモンド」「血塗られたダイヤモンド」とも。紛争の資金源となるダイヤモンドのこと

2015年2月からピースダイヤモンドカフェを限定オープン!

Peace Diamondsでは、2015年2月21日(土)12:00~17:30、ピースダイヤモンドカフェを三軒茶屋で開催いたします。身体や地球にやさしいオーガニックやフェアトレードにこだわったメニューを楽しみながら、ピースダイヤモンドジュエリーをご覧いただけます。

また同日15:00~16:30、少人数セミナー「ダイヤモンドの謎にせまる ~キンバリープロセスの落とし穴~」を開催いたします(要予約)。お気軽にご参加くださいませ。

ピースダイヤモンドカフェ
日程:2月7日(土)、2月21日(土)、3月22日(日)
時間:12:00~17:30 (ラストオーダー17:00)
場所:世田谷区三軒茶屋1-28-3
詳細:http://peacediamonds.jp/pdcafe.html

【セミナー「ダイヤモンドの謎にせまる ~キンバリープロセスの落とし穴~」】
ダイヤモンド原石が紛争の資金源となることを予防するために設立されたキンバリープロセス認証制度。一定の成果をあげてはいますが、課題・問題・抜け道が多いのも事実です。日本ではあまり知られていないキンバリープロセスの詳細に焦点をあて、どのような現状なのかを勉強します。

日時:2月21日(土)15:00~16:30
場所:ピースダイヤモンドカフェ
定員:5名(要予約)
会費:3,000円(ドリンク付) ※当日現金でお支払ください
予約:http://peacediamonds.jp/pdseminar.html

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