【対談】岩波君代×片山真理 人はなぜ、装うのか? ハイヒールプロジェクトから見える「オシャレ」する意味

null by Takeo Yamada 2016. 2. 21

ライブ出演を目指して義足用のハイヒールを作ったことから始まった両足義足のアーティスト・片山真理さんの「ハイヒールプロジェクト」。その中で真理さんが知ったのは、福祉と装いを取り巻く環境についてでした。

「オシャレするという選択肢を持てない。そもそも選択できるということを知らない」。

このプロジェクトでは義足を見せ、ハイヒールを履いて街へ繰り出した真理さん。その姿に、「『オシャレしたい』って言っても良いんだと思えた」という声が、障がいを持つ方々から集まっています。

今回、真理さんが「先生」と呼び、同プロジェクトを当初から支えた、衣服・介護シューズコンサルタントの岩波君代さんと対談。40年以上、義肢装具や福祉機器の現場を見続けてきた先生と、〈障がいとオシャレ〉の現状や関係について話しました。


片山真理×岩波君代
片山真理×岩波君代

「みな、自分の体がどうなっているのかをきちんと知ることが大事。骨まで愛して〜♪ ってね!」と言う岩波さんと脚の骨を持って。

コミュニケーションを阻む「気持ちの壁」

岩波: 以前、上肢欠損の方のために、デザイナーさんが服を作るというワークショップがあったんですけど、途中デザイナーさんが悩んでいらして、「ここはどうしたらいいのか……体のことを聞いていいのかな?」って相談されたんです。
 だから私、「聞かなきゃだめじゃない! ご本人は言いたくないんじゃない。みなさんに知ってもらって良いモノ作ってほしいから、語って理解してもらおうとしてるのよ」と言ったんですけど、双方が遠慮してしまう部分はありますよね。

片山: 私も、ほかの障がいを持つ方に、「こういうこと、言っていいのかな?」って思うときは多いです。私は左手が2本指だけど、両手2本指の人がいるんですよ。でもその人の手を「かわいいよね! 便利だよね!」とは言いにくい。私は言われたら「そうでしょ?!」って思うけど。
 人によって思いが違うし、気遣うからこそ言えないんですよね。それで、どんどん心が離れていっちゃう。コミュニケーションがいちばんの要なのに、それができないのはもったいないと思うんですけど、難しい……。

marikatayama-iwanami-6

岩波: 真理さんでさえそうなんですから、そういう環境や人に出会ってこなくて、誰からも教えられてこなかったら、想像しろって言われても無理ですよね。

片山: 先日、目が見えない方と仕事する機会をいただいたんですけど、初めてお会いしたとき、私ぜんぜん接し方が分からなくて……。これからいっしょに仕事するのにどうしたらいいんだろうって、一カ月くらい悩んでたんです。でも、「私はその人を知ろうとしてなかった」って、気づいたんです。本当にコミュニケーションしたいと思ったら、もっと勉強するはず。だから「どう接したらいいのか分からない」というのは、意思があれば、簡単に解決するのかもしれない。

岩波: 結局「思い」じゃないかなって思うんですよ。作る側に「オシャレは大事」っていう思いがあるかないか。一度オシャレにすることの意義が分かったら、もう「黒にする」「赤を付ける」といったことは、装具を作る中ではそう難しいことではないはずですから。

「ハイヒールプロジェクト」のメッセージ

片山: 「オシャレしていい」「オシャレにできる」ってことに気づいてもらううえで、私の「ハイヒールプロジェクト」も、目立って誰かの心に残ったらいいなって。そこから「なんでなんだろう?」って、一歩踏み込んでくれる人が現れたらうれしいって気持ちです。まずは、否定的な感想を持たれても、気づいてもらうことが大事って。

岩波: 「ハイヒールプロジェクト」のメッセージは、なにがなんでもヒールを履こうって言ってるわけではないんですよね。そうじゃなくて、ヒールが履けない、ミュールも履けない、あれもこれも履けない……って、そうやって自分の履きたいものを諦めていったら、「いかにも補装具!」みたいなものしか選択肢がなくなっちゃいますよね。

ハイヒールを履いて街へ繰り出した真理さん。「人の視線をちょっとは感じたけれど、自分のしたいオシャレをしていたから、むしろいつもよりワクワクする気持ちになれました」。

ハイヒールを履いて街へ繰り出した真理さん。「人の視線をちょっとは感じたけれど、自分のしたいオシャレをしていたから、むしろいつもよりワクワクする気持ちになれました」。

片山: できることを探していくんじゃなくて、できないことをチェックしていくようなことはすごい虚しい。悪い意味で自分を理解していく旅に出るのはつまんないよね? っていう気持ちでしたね。

岩波: この話は、私たちみんなに通じる話だと思うんです。靴に限らず、人がチャレンジしたいことはどれも、「どうしてもしなきゃいけないこと」じゃないですよね。だからって諦めていったら、いまの自分からは抜けだせないんじゃないの? と。

片山: 発表してから、「私もヒールの足部を取り寄せたよ」っていう人が何人か現れたんです。ハイヒールだけじゃなくて、「かっこいいお姉ちゃんがいるって知って、俺も今日ネクタイをオシャレにしてきたんだよ」っていうおじちゃんとかもいて……少しでも背中を押せたのかなと思うと、すごいうれしかったです。

岩波: 20年前の話ですけど、車いすの人で、成人式の着物が着られなくて、「成人式の話題が出ると、いつも着られなかったことを思い出して辛い」っていう方がいたんです。それを聞いて、洋服一つで、人生で引きずってしまうことがあるんだと思いました。
 また、ある男性がまひになったとき、最初はただ無骨なだけのプラスチック装具を見て、「こんなの履いていられるか!」って、頑なに履かなかったそうです。でも、この補装具をご覧になって、すごくオシャレだし、自分の好きな色のものもあったので喜んで履かれて。それからは急にリハビリを頑張ったそうですよ。

真理さんが手に持っているのが、男性が「履く気になった」短下肢装具の同モデル。

真理さんが手に持っているのが、男性が「履く気になった」短下肢装具の同モデル。

片山: これはかっこいい! 履けないけど欲しい……(笑)。やっぱり、かわいいものやかっこいいものを身につけると、姿勢が変わるんですよね。

→Next:昔から変わらないものとは? 昔から受け継ぐものとは?

この記事のキーワード

Keywords

Sponsored Link
次はコチラの記事もいかがでしょう?

Related Posts