フェアトレード推進のカギとなるか? 「ビッグ・テント・アプローチ」に注目

2014. 4. 11
第8回フェアトレードタウン国際会議 in 熊本 初日のレポートはコチラから

世界中で地域からの発信が盛ん

3月29日の会議初日、早速「フェアトレードタウンの現状と課題」というテーマでパネルディスカッションが行われた。フェアトレードタウンは現在、24カ国1,444カ所に及び、増えていく傾向にあるが、フェアトレードタウン運動は多様化する社会、経済、政治、文化の違いを乗り越え、途上国さらに国内の地域にも適応していかなければならないという課題を抱えている。そこで、①インテグリティ(※人として高い道徳観と倫理観)を持って活動していくこと、②難しくても諦めずに市場と協働を試み続ける必要性があることが指摘された。さらにもともとフェアトレードタウン運動は、イギリスのガースタンという一地域の草の根運動から始めていく小さなものだった。小さいことから始め、小さな生産活動や個人の消費活動が、経済に影響を与えていったマイクロ経済な側面を伝え、安心感を提供することの重要性も話された。

パネルディスカッションが行われた大ホールは満席に。

パネルディスカッションが行われた大ホールは満席に。


その後、2回目の全体会議「公正な地域経済社会の構築」のパネリストディスカッションでは、地域でいかにしてフェアトレードを広めていくかの重要性が、事例を交えて議論された。例えば「カナダ・フェアトレード・ネットワーク」からは、雑誌への掲載が大きく市民への普及に貢献していることが紹介された。ブラジルの「SEBRAE」からは、中小企業支援庁やNPOから支援があることで地元の生産者もラベル認証を受けやすくなっており、普及が比較的スムーズという。

地元経済がフェアトレードを推進していくためには、地元の人々を啓発し、地元の生産者を支援し、全体でマーケットを広げていくようなキャンペーンを行うことが必要のようだ。

日本におけるフェアトレード運動と「ビッグ・テント・アプローチ」

複数開催されたワークショップのうち「日本におけるフェアトレード運動」でも、地域を巻き込んだ日本のフェアトレードタウン運動の事例が多数紹介された。

まず名古屋市は、今年中に日本で2つ目のフェアトレードタウンとなる見込みの都市だ。同市でのフェアトレードに対する認知率は、38.8%と高い数字を示している。「フェアトレード名古屋ネットワーク」で発行しているフリーペーパーは、かわいい雑貨が満載で楽しい紙面となっているし、毎年主催されているフェアトレード・ファッションショーは、プロのモデルも使って本格的に行っていることで、市民からの認知度も高まっているという。同市は地域貢献にも積極的で、地域通貨など地域で経済を回すことも検討しているようだ。

北海道札幌市にある「ファイターズ通り」というシャッター街では、「カカオラボ・ホッカイドウ」という世界で一番小さいチョコレート工場を作っており、カカオ栽培の児童労働の支援に加え、地域活性化にも効果を発揮しているという。オーガニックカカオを使った商品を開発したことで、関心のある主婦や学生を商店街に呼び込んだのだ。また、岐阜の垂井町では「地産地消」がフェアトレード商品として認識されているという。

このように日本のほか、アメリカやポーランドなどのフェアトレードタウン運動では、昨年から認証にとらわれないローカルな普及アプローチが多々なされているという。地域活性化、地産地消やまちづくり、環境活動、障害者支援などのアプローチを含む手法を「ビッグ・テント・アプローチ」といい、新しい方法として今回注目された。

多様な状況の中で、フェアトレードタウン運動はどう広まるのか?

しかし他のアジア生産者からは課題も紹介された。例えばカンボジアでは、オーガニックのドライマンゴーの生産が雇用を生み出したが、生産者からは、「大規模開発をしたい現地の当局者からフェアトレードへの理解が得られず、取り組みが難航している」という。大規模開発は一時的に大きな経済効果を生み出すため、当局側はこちらを優先したい考えのようだ。

地域や国によって抱える課題は異なる。それを解決するには、「ビッグ・テント・アプローチ」で地域にゆっくりと波及させるほかに、さらに何かが必要なように感じる。例えば、フェアトレードタウンへのプロセスには、直接市民と対話してしっかり理念を伝えられるショップの影響が大きい。その存在意義にももっと触れてよいのではないかと感じた。

2日目は、本会議実行委員長の明石祥子氏がブータン・チモン村から持ちかえったオーガニックコットンで作成された衣装と、「ピープル・ツリー」の協力によるファッションショーが開催され、雨にも関わらずたくさんの人が来場した。

2日目の3月30日も、ビッグ・テント・アプローチについて議論が続き、途上国の事例や、ラベルや認証制度が市民の間に広がりを見せているという報告もあった。最後の「本会議のまとめとこれからの行動」でも、モリー・ハリス・オルソン氏(国際フェアトレードラベル機構 前理事長)からは「ビッグ・テントの『テント』とは何か、という議論がもっと必要」という意見があった。「テント」は地域経済にメリットをもたらすためのものなのか、たんに商品にラベルがあるかないかの問題なのか。テントの中に入ることで、消費者にメリットを与えることに加え、新興国・先進国・地元生産者全ての経済的メリットを考えなければならない、という指摘だった。

今回多くの事例がされる中で、生産者支援から始まったフェアトレード運動も、国や地域ごとに独自性があることがうかがえた。つまり、途上国・先進国・国内地域いずれにおいても、状況が多様化しているということだ。その中で、フェアトレードタウン運動を同じ条件下で進めていくことが困難になり、ビッグ・テント・アプローチに注目が集まったというわけである。このアプローチについての議論は始まったばかりだが、今後の運動の進め方を示唆する会議になったように感じた。次回の「第9回フェアトレードタウン国際会議」は、イギリスのブリストルで開催される。次回の会議ではさらにどういった議論がなされるか、今後も注目していきたい。


Written by Keiko OKUDA

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