ファクトリーブランドの先駆け 北海道から発信し続ける「KAMISHIMA CHINAMI」の18年

A Picture of $name 鎌倉 泰子 2017. 3. 6

H.P.FRANCE所属のバイヤーとして、「destination Tokyo」「goldie H.P.FRANCE」「TIME&EFFORT」などのセレクトを手がけて牽引してきた鎌倉泰子さんが、気になるデザイナーを訪問。対談を通じて、その魅力やものづくりに迫ります。

今回訪ねたのは、およそ20年にわたってスタイリストやバイヤーに愛され続ける「KAMISHIMA CHINAMI(カミシマチナミ)」。モード好きなら誰でも知る?! 「KAMISHIMA CHINAMI」ですが、実はファクトリーブランドの先駆けとして始まったそう。

デザイナーのカミシマさんの片腕として、ともに約20年駆け抜けてきた沼田光重ぬまた みつのぶさんに、これまでなかなか語られることのなかった「KAMISHIMA CHINAMI」の知られざる歴史とものづくりの世界を尋ねました。

柄は1枚の絵としておさまるように

鎌倉: 色から話が変わって、柄も「KAMISHIMA CHINAMI」の特徴の一つですよね。ちょっと余談かもしれませんが、サンプルの洋服と納品された洋服のプリントのモチーフの位置が違うということが往々にしてあります。例えば、サンプルでは左下にあった小鳥の柄が、製品だと肩のところにある、とか。「KAMISHIMA CHINAMI」はそれがない。ずっと疑問だったのですが、「柄の繰り返し」はどうやって決めているんですか?

17SSコレクションより(提供:KAMISHIMA CHINAMI)

17SSコレクションより(提供:KAMISHIMA CHINAMI)

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沼田: テキスタイルを考えるイラストレーターがいて、カミシマとコミュニケーションをとりながら、象徴的なモチーフを描くところから始まります。図案が決まってくると、実寸代の柄を印刷した大きな紙を体に当てて、ワンピースの丈だったりスカートの広がりを想定しながら、柄の「比率」や「繰り返し」を決めるんです。1着の中に完全に絵として納まるようになっているんです。

鎌倉: そっか! すごい! 多色使いのストライプのピッチなどもそうですよね。

沼田: 大きく印象が変わってしまうようなことがないよう、プリントの大きさやモチーフ、色のバランスとレイアウトは全てのアイテムに実際に置き替えながら考え抜いています。

13SSコレクションより(提供:KAMISHIMA CHINAMI)

13SSコレクションより(提供:KAMISHIMA CHINAMI)

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鎌倉: 「KAMISHIMA CHINAMI」のニットも、ほかにはないデザインですが……。

沼田: ニットはカミシマが好きな素材の一つです。ニットのデザインにはいろいろな遍歴があります。繊細なシルエットを追求したシンプルなニットから、時には通常では使わないような資材を糸として用いたニットまで、いろいろと手がけました。最初の数シーズンは企業さんに頼むことができず、ニット教室の先生方とか、いろんな方に頼んで編んでもらっていました。

09SSコレクションより(提供:KAMISHIMACHINAMI)

09SSコレクションより(提供:KAMISHIMACHINAMI)

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17SSコレクションのニット。デザインテーマは「メッカ巡礼」。

17SSコレクションのニット。デザインテーマは「メッカ巡礼」。

鎌倉: 長くお付き合いさせていただいていますが、知らなかった! そんな歴史があったんですね……。
いま、ものを作っている方々に聞きたいし、聞かなければいけないことだと思うのですが、考え方として、「MADE IN JAPAN」にこだわっているのか、生産背景として海外のものや技術が必要じゃないと考えているのか、どちらなんですか?

沼田: 日本製にこだわっているのではないですね。

鎌倉: つまり、良いクオリティのものを思うとおりに作ることができるのが日本だったということでしょうか。

沼田: そうですね。いまでも刺繍やニットなどの一部を除いては全て日本で作っています。アトリエを見ていただいたのでお分かりのように、広く、贅沢な場所で作っています。布を大きく広げることができるし、染色もできるしミシンもあるし、切ったり縫ったり考えたりしながら、いろんな情報をスピーディに共有し、実際に触りながら進行できる環境があって、デザインが研ぎ澄まされるのだと思います。

細部へのこだわりがオーラを作る

鎌倉: 「KAMISHIMA CHINAMI」は、私が担当していた歴代のショップで常に取り扱いをさせていただきましたが、ショップの個性を際立たせてくれつつ、売上も頼れて、「軸になる」ブランドでした。ロゴなどの大きな「アイコン」があるわけではないけれど、お客さまが魅力を感じて買ってくださっているのは明らかでした。短い言葉で言い切れるようなものではないなにか。カミシマさんも、数回しかお会いしていないこともありますが、ミステリアスながらストイックなイメージがあります。

沼田: 洋服に対してのこだわりが強いというイメージもあるんでしょうか?

鎌倉: 探求が垣間見えますよね。糸の太さ、ステッチのピッチとか裾からの距離だったりとか、『言われなきゃそこまで見ないでしょ?!』って思っちゃうようなこだわりなんですけど、でもそれがないと、最終的にこの雰囲気には仕上がらないんですよね。私が「KAMISHIMA CHINAMI」を好きな大きな理由の一つだと思う。

沼田: そうなんですよ。ステッチとか、指示がすごく細かいですよ! パタンナーさんに任せているところもあるんですが、後でカミシマから修正が入るんです。『このライン、あと1mm下げて』とか。

鎌倉: そういうのを感じられるから、よりデザインに深みが生まれるのでしょうね。全てのお客さまが、一つ一つの細部のこだわりを見ているわけではないのだろうな、と実際は思ってしまうときがあるのですが、そういった細かいこだわりの集合体でできた1着からにじみ出るオーラのようなものが伝わっている。カミシマさんが生み出しているものも、縫製工場である強みを生かした、「技術を引き立てるデザイン」ですよね。

沼田: そうですね。そして社長である渡部が、『この縫製ならこういったものが作れる』という、「技術から生まれるデザイン」を示してきたと思います。

→Next:18年のデザインの移り変わりと、ファッションが進むべき道。

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