きっかけは東日本大震災 ベルリンのショップ「OUKAN」と日本の“タイムレス”な縁とは?

A Picture of $name HITOMI ITO 2015. 9. 30

場所は、ベルリン中心の少し路地を入ったところ。セレクトショップ「OUKAN」の佇まいは、東独時代を感じるノスタルジックな町並みの中にあってはさりげないけれども、ショーウィンドウから強いメッセージをひしひしと感じます。

そのアヴァンギャルド&モード全開の雰囲気からはちょっと意外に感じてしまうのが正直なところですが、実は、このショップがオープンした背景には東日本大震災があるそう。それだけでなく、日本の禅・侘び寂びから得た「タイムレス」さも込めているとも。

静かに、だけど力強く日本とベルリンをつなぐ、ベトナム系ドイツ人オーナー・Tran Mai Huy-Thongさんにその思いを尋ねました。

© OUKAN, Photography: Achim Hatzius

© OUKAN, Photography: Achim Hatzius

――ショップを開いた経緯は?
もともと、日本人の友人たちとベルリンで東日本大震災のチャリティイベントを企画したのがきっかけです。

最初は「Singing for Japan」というカラオケ大会を開催しました。歌う人は必ず1ユーロ以上寄付するというルールにしたんですが、全員が1ユーロ以上寄付してくれました。とっても盛り上がってすてきな夜になりました。次はチャリティディナーを開きました。髪で習字を描く日本人アーティストも招いたんです。見事でしたよ。

さらに続いて、東京ファッション・ウィークと連携して、日本の若手デザイナー40グループをベルリンに招き、大型展示会「Premium」で、彼らの展示とショーを行いました。

それぞれ本当にすばらしい取り組みになったので、日本人の友人たちと継続してやろうという話になりました。そこで、ショップを作って日本を中心にセレクトしてメッセージを発信していくことにし、2011年10月にショップをオープンしました。

左端がHuy-Thongさん。ショップのチームと。

左端がHuy-Thongさん。ショップのチームと。

――震災になぜそんなに影響を受けたのですか?
二つのきっかけがあります。

まずファッション業界で働いていると、すばらしい才能を持つ日本人との出会いは避けられません。業界で働きながら、たくさん日本人の友人ができました。

次に、震災が起こったその日、日本人で僕の最も親しい友人の一人が、ちょうど日本へ帰るフライトに乗っていました。僕はもうショックで! 仲間とありとあらゆる方法で連絡を取ろうとしているのに、ぜんぜん返事がなかったんです。返事が来たのは1週間後。もう本当にほんとうにホッとしました!

他の帰国した友人らにも連絡を取り、状況を把握しました。その後もテレビを見ていたら、福島原子炉の処理をするために、多くの作業員の方々が現地で作業を行っているのを知りました。その事実にも衝撃を受けました。

日本だけでなく、アジアはどこかつながりを感じ得ずにいられません。タイで洪水が起きたときも、テレビで見ながらすごく胸が苦しくて。そのニュースを知った次の日の朝、起きたら全身かきむしっていて、血が出ていました。

何かしないと、という気持ちがあったんです。

――アジアはベトナムの出身ですね。
僕の両親はボート・ピープルで、ドイツに移住しました。僕が本当に小さい頃で、僕自身はベトナムの記憶はほとんどありません。でも、いつもアジアに旅行に行くともう胸が高鳴ってしかたない! 「この光景知ってる!」ってデジャヴが起こるんです。そんなはずはないのにです。

アジアのカルチャーは、自然と寄り添っています。自然と人が対立していないように感じて、そんなやさしいムードが大好きですね。

――なにかしらつながりがあるのかもしれません。
日本に向けた活動を始めて1年経った頃、僕のおじがベルリンまで尋ねてきてくれました。いろんな話をしたら、おじが僕が祖父に似ているって言うんです。

祖父は早くに亡くなったので、僕は祖父に会ったことはありません。ですから「どういうこと?」と聞くと、どうやら祖父は、日本とベトナムの国交を開いた人らしいんですね。ごめんなさい、詳しい話は分からないのですが、日本が大好きだった人らしいです。

偶然という人もいるかもしれませんが、僕は運命だと感じました。それだけでなく、日本のカルチャーは大好き。特にファッションデザイン分野で働く中で、侘び寂び、禅の思想には助けられました。

――禅に出合ったきっかけは?
まだ学生の頃、僕はプロのダンサーをしていたんですが、毎日5〜6時間も練習します。ただ練習中、すごく胸が苦しくなるんですよ。

どこか悪いのかなと思って病院に行ったら、どこも悪くない、と。

だから、精神的なものかなと思って、フランス南西部の禅寺に通うようになったんです。そこで出会った僧侶がすばらしい方で、すっかり惹かれました。彼の禅ヴィレッジもすてきな場所なんですよ。自然に囲まれてて、テントに寝泊まりするんです。毎年訪ねるんですが、それが僕の夏休みです。日本にも何度か訪れたことがあると言っていました。

現代人は、さまざまなプレッシャーを掛けられています。家族、仕事……そこの僧侶は、誰でも自分で禅を実践できるよう噛み砕いて教えています。

――侘び寂び、禅のどんなところに惹かれたのですか?
禅は、自らの内側に入っていくこと。己のことを、本当に理解することです。

デザイナーはいつでも、「次は何が来る、何が新しい? 過去にはなにがあった?」ということを考えていて、「いまこの瞬間」の只中にはいません。そして自分自身のことを理解していないと、他人のことも理解できないのです。

禅を通じて己を理解すれば、周りのことも理解できるようになります。それはデザインするうえで非常に力になります。

――では、「OUKAN」にはどのようにご自身のメッセージを反映されていますか?
「OUKAN」ではいま、日本のクリエイターを中心に、世界中から若手大御所問わずキュレーションしていますが、取り扱うのは、メッセージのあるデザインであることは前提で、特に黒色にこだわっています。トレンドではなく、タイムレスでサステナブルなものを提案したいからです。

そして、自然や身の回りの環境にやさしいもの、または私たちの社会をより良い方向にドライブさせる思想や作り方をしているものをセレクトしています。

© OUKAN, Photography: Achim Hatzius

© OUKAN, Photography: Achim Hatzius

――もともと、環境などへの関心はあったのですか?
もちろんです。自然を無視したものづくりは、うまくいきません。いま、いまのものづくりのあり方、経済のあり方がなにかしらうまく行ってないことが分かっていて、多くの人がこのようなやり方をしてきたことを後悔しています。でも、改善はなかなか見られませんし、むしろ悪化していくようにも感じます。特に、急成長を遂げているアジア各国は、同じ道を辿ろうとしています。だから、「サイン」を発信しているのです。

身の回りにある自然と共に生きなければ、ものづくりは続けられません。いつまでも愛することができる。それは真の意味で、タイムレスになるのではないでしょうか。

OUKAN

Website:http://WWW.OUKAN.DE/
営業:月〜土、12:00〜19:00
住所:Kronenstrasse 71 10117 Berlin
電話:+49.30.20 62 67 00
問い合わせ:HELLO@OUKAN.DE

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