「海外のフェアトレード商品は、日本向けにアレンジすべき」は本当か? メコンブルー との2度の出会いから考える

A Picture of $name 渡部えみ 2014. 6. 23

「フェアトレード商品を日本で展開するのなら、日本人の好みに合わせてアレンジすべき」ーーこう考えている人は、少なくないのではないでしょうか。他ならぬ私自身がそうでした。

例えば、その国独特な色使いの鮮やかなトップス。単体で見たときはその独特な色味が魅力的に感じても、いざふだん着と合わせてみるとそれだけが浮いてしまい、着る機会があまりない……という経験はありませんか?

魅力に感じた色づかいは、ふだん着と並べると「違和感」となり、使い勝手の悪い原因に……私もそんな経験を繰り返すうち、「その国ならでは」の商品はすっかりふだんのお買い物の選択肢から外れ、手に取ることもなくなっていました。だから漠然と「日本で発売するフェアトレード商品は、日本人の好みに合わせてアレンジしたほうが広がるのではないか?」と思っていました。

でも私たちの感じる「違和感」は、売り手と買い手、半歩ずつの歩み寄で乗り越えられるのかも……。そのヒントは、カンボジア発のシルクストールブランド「Mekong Blue(メコンブルー)」との2度の出合いの中にありました。

ときめかなかった最初の出会い

2013年3月、展示会で初めて見たメコンブルーのストールは、輸入を手がける特定非営利活動法人ポレポレ代表・高橋邦之さんの横で、ラックに整然と並んでいました。手織りとは思えないほどの精緻な織り目、シルク独特の上品な質感……それにもかかわらず、正直にいうと、あまりときめかなかったのです。

2013年3月で見た展示会での展示の様子。正直、このときはあまりときめかなかった。

2013年3月で見た展示会での展示の様子。正直、このときはあまりときめかなかった。

メコンブルーのストールは、カンボジアの女性が糸を紡ぎ、色を染め、織りあげているもので、品質は随一。創設者のチャンタさんによるデザインも、ユネスコ手工芸部門を3度も受賞しているほどの代物。それでも、カンボジア独特の鮮やかな色づかいが、私に前述の経験を思い出させました。

「これから、日本向けに企画していく予定はありますか?」

そこで、その場でもこのように高橋さんに尋ねました。やはり日本で広く受け入れられるためには、この色味を日本向けにアレンジすることが必要と、このときも私は思っていたのでした。

景色の共有が意識を変える

それからときが経ち、再びメコンブルーを見る機会が訪れます。

2013年11月にギャラリー・モーツァルトで開催されたメコンブルー展。「Ready for?」でのクラウドファンディングを成立させ、制作した初のブランドブックのお披露目も兼ねたこの展示会で、メコンブルーへの印象はガラリと変わりました。

2013年11月、メコンブルー展での展示の様子。

2013年11月、メコンブルー展での展示の様子。

ふわりと掛けられたストールの横に置かれた大判のパネル。そこに映し出された、作り手にとって身近なカンボジアの景色たち。写真とともに並べられたストールは、とたんに息を吹き込まれたように、いきいきと私の目に映り始めました。

「このストールと写真は、どのようにして組み合わせたのですか?」カメラマンの鈴木竜一朗さんにそう尋ねると、「ブランドブック用に撮影した写真の中から、ストールに合わせて選んだんです」とのお返事でした。

それはつまり、現地の景色の中でストールの色合いが見出せるということ。チャンタさんや染め手、織り子さんの細胞に染み込んだ景色が、デザインや色づかいとなって、ストールに映し出されているのです。

「この景色が、このストールの色合いの原点なんだ」

作り手と私が景色を共有し、カンボジアの色合いを経験した瞬間、ブランドブックにある『デザインにはそれぞれテーマがあり、あるストールは、ゆったりたゆたう運河と、そこに浮かぶ雲がかかる夕陽のきらめきを表現している。その情景は、ストールが織られているカンボジア・ストゥントレンでしか生まれないもの』という、メコンブルーの色の原点が、すっと腑に落ちたのでした。

大切なのは、その色の原点を共有すること

Photography: 深津陽子

Photography: 深津陽子

青空に映える桜のような日本ならではの景色を日々眺めている私たちは、その色づかいを心地よく感じがちです。同じ原理で、いままでに見たことのない色づかいは、なんとなくピンと来なかったり違和感を感じたりするのではないでしょうか。

でもそれは、「景色とストールを一緒に眺める」というシンプルな方法を通じて、色の原点を追体験することで解決しました。またそれ以上に、手に取ることもなくなっていた類のものを、再度、購入の選択肢に入れるだけの作用をもたらしたのです。この展示会で、私が全てのストールを手に取り、試してみたように。

その国独特のものを魅力に転換させる術は、売り手の「伝える」工夫と、買う側のそれを受け取る「感受性」や原点を思い描く「想像力」……意外とシンプルなことなのかもしれません。

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