必需品としてではない、特別な普段着 〜「CLICK PEBBLE」須賀明珠さん

A Picture of $name 鎌倉 泰子 2017. 12. 27

H.P.FRANCE所属のバイヤーとして、「destination Tokyo」「goldie H.P.FRANCE」「TIME&EFFORT」などのセレクトを手がけて牽引してきた鎌倉泰子さんが、気になるブランドを訪問。その魅力やものづくりに迫ります。

今回訪ねたのは、「CLICK PEBBLE」の須賀明珠(すが・あけみ)さんの下。ふだんテクニックなどが分かりやすい華やかな服を好む鎌倉さんには珍しい?! 「CLICK PEBBLE」はナチュラルでシンプル、ベーシックなスタイルを10年以上貫いてきたカットソー中心のブランド。

「CLICK PEBBLE」は、一瞬「持ってるかも」と思うけど、「いや、こんなに素材が良いものは持ってない」「なんかちょっとほかとは違う、こんなかわいいのは持っていない」と、お客さまが気づくもの……と話す鎌倉さん。

なにげない定番を際立たせるものはなにか? ブランドの歴史を振り返りながら、ものづくりについて尋ねました。

一方的にお客さま像を練り上げない

鎌倉: 天然素材を選ぶようになったのには、なにか理由があるんですか?

須賀: 特別なきっかけがあったわけではないですが、気づけば天然素材や、肌触りの良い素材を選ぶようになっていましたね。ただ、以前勤めていた会社で、インテリア雑貨ブランドとしてのウェアをデザインしていたのですが、ブランドイメージもあって、着心地の良い素材を使ったものが多く、それが自分にとっても自然だったのを覚えています。

鎌倉: 10年以上ブランドをされていると、やはり消費する主な年齢層や流行の変化なども当然あると思うのですが、その中で、売上が大きく左右されたことはありましたか?

須賀: 取引先さまのお店のコンセプトが変わってお取引がなくなったり、お店をクローズされたり、というような範囲で変動はありましたが、売上が極端に変わったことはなかったです。ただ、ここ1〜2年は厳しいです……。

鎌倉: 地方に多い地域密着型のショップだと、お客さまの年齢やライフスタイルにお店が合わせたり、新しいものを提案したりして、顧客の変化に対応するのだと思いますが、そうした変化にはどうやって対応してこられたんですか?

須賀: お付き合いが始まった頃は30代だったバイヤーさんが、気づけば40代になっていたりしますが、そういったバイヤーさんは、お客さまとの距離が近いので、新鮮さを大事にしていながらも、品揃えをガラっと変えるようなことはないみたいです。「お客さまは、50代、60代になったからといって、50代、60代のための服は着たくないの」と、あるバイヤーさんが言われていました。

鎌倉: ターゲットを絞っているわけではない、と。

須賀: というより、作る側が思うより、お客さまの感覚は若いですし、作り手と買い手の年齢層が違うと、どうしてもずれると思うんです。最初に勤めた会社でも、40代をターゲットにしたブランドで、「自分が40代、50代になっても絶対に着ない」と思う服を作っていました。そして、実際買ってくださっているのも、50〜60代以上でした。いまのお客さまは、当時より自分の着たいものを選べる環境にいますし、勝手にお客さまの年齢を設定しても意味がないな、と思います。

鎌倉: やはり女性は、ライフステージや趣味趣向が変わるにつれて、どこかで服から関心が逸れるタイミングはあると思うんです。お子さんやお孫さんが生まれたり、スポーツなどの趣味に没頭したりすると、お金の使い方が変わります。密着型の店舗さんは、そこにどうやって対応しているのかな、と思って。

須賀: それはありますね。ウチはほとんどのお取引先が個店なので、特にバイヤーさんはそういった部分に気を使って品揃えを考えていると思います。「いままで買ってくださってたお客さまが来てくださらなくなって……」というのも、よく聞きます。だから、お店も私も、新しいお客さまを常に開拓していかなければいけないと思います。

定番の中にある豊かさ

鎌倉: 話は変わりますが、ファストファッションを中心に自分のコーディネイトを組んでいる若い人たちって、色の深みや質感の違いをどんな感覚で捉えているんだろう、と思うときがあるんです。色だけでなく、暖かい、肌触りが良い、という質感も。

須賀: 先日、友人の子どもに、ウチのベビーアルパカのニットを着てもらったら、「死ぬほど暖かい!」って言うんですよ。
たとえば、ふだん、アクリル80%、ウール20%の3,000円のセーターを着ているとします。上質なウールは、製品にしたときにも軽いですが、そうでないものは重い。だから軽さを出し、コストを下げるためには、化学繊維の混率を上げることが多いみたいです。表面的にはふわっとしているしウールが入っていることには変わりないので、見た目の印象は悪くないんですけど、着心地には大きな差が出ます。

鎌倉: 良いものを着たことがなく、いま着ているものより着心地の良いものの存在に気づけないということですね。以前、セレクトショップの店頭に立っていたとき、ポリエステルのワンピースが売れ筋だったんですけど、30〜40代のお客さまも「ポリエステルならさらっとして涼しい」っておっしゃるんです。心の中では、「そうでもないですよ。涼しさなら麻のほうが涼しいですよ」と、思いつつ、「お手入れのしやすさなら、ポリエステルですよね」と、お話させていただていたのを思い出します。もちろん、全てがそうではないですけど。

須賀: 天然繊維と化学繊維のどっちが良い、ということではなく、大人になるうちに選択肢として知ってたらいいのにな、と思います。

鎌倉: 「CLICK PEBBLE」の服は、着心地の良さがデザインに組み込まれていると思うんです。お話を聞いていると、肌触りが良い、伸縮性があって動きやすい、という生地選びだけで着心地良さの追求を終わらせず、その次の段階のデザインでも、着心地の良さを追求していると思いました。
1m当たり1,000円の生地で、切り替えなし〉のアイテムを作るのではなく、〈1m当たり800円の生地だけど、切り替えを作る〉で、着心地20%増! みたいな。一つにこだわりすぎることなく、マイナスポイントがあればほかで補い、プラスにするバランス感がありますよね。これは、お客さまのお財布事情の想像もできているのでは? と思いました。

須賀: あと、「あ!」って気づいて楽しんでくれる「ひとひねり」も入れているつもりです。なにが、どこが、って聞かれると言えないんですけど、「なんかやっぱりいいな」って思っていただけたら嬉しいです。着る人にとっては1m当たりいくらの生地かって、関係ない。なにも知らなくても、店頭で手に取ってもらえる、試着したら必ず「これを着たい」と思ってもらえるものを作りたいです。

新しい挑戦へ

須賀: 2018年春夏のコレクションからは、「CLOSELY CLICK PEBBLE(クロースリー クリック ペブル)」という新しいカットソーの定番商品のラインを展開します。欲しいときにすぐ買えたり、どこかのお店に1年中置いてあって、自分の家のクローゼットにあるかのように、手を伸ばしていただけるようなラインです。いつも近くにおいておきたい服になることを願って名づけました。ただ、定番を作り続けることと、同じものをずっと作り続けるのとは違う。少しずつ進化させていきたいです。

鎌倉: ここまで話を伺って、10年以上、生地作りからデザイン、お店さんとのやり取りまで、一人で切り盛りしてこられたということがすごい。しかもそのどれもこだわっていて……。こうして、いままで続けてこれた理由ってなんだとお考えですか?

須賀: ブームに巻き込まれなかったんだと思います。活動のペースやプロセスを守って、ブランド全体のクオリティが下がらないようにしていられたので、みなさんの期待を裏切らないでこられたのかな。お客さま、バイヤーさんとともに、私も歳をとるわけですから、必要とされる間は、一緒に時間と価値観を共有したいです。

(インタビューここまで)

自分を表現して、ほかの人とコミュニケーションを取る一つの方法としてファッションがある。かたや、「日用品」としてのファッションもある。でも、そういうものこそ、ただ「必需品」として揃えるのではなく、数ある中から自分でしっかり選ぶことに意味があるような気がします。

「特別な普段着」に、「CLICK PEBBLE」「CLOSELY CLICK PEBBLE」はいかがでしょう?

CLICK PEBBLE

【website】http://www.clickpebble.com/
【instagram】@clickpebble

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