「H&M」初の循環型ファッション研究アワード優勝技術で、素材を再利用し続けられるデザインを研究するデザイナー・Alice Beyer Schuch

Photography Courtesy of Alice Beyer Schuch 2016. 3. 4

2050年までに世界人口が90億人を突破するといわれるいま※United Nations, July 2015、いかにして資源を保つかが課題になっている。

現在繊維分野では、ペットボトルなどを再利用したリサイクル繊維の開発が進んでいる。しかし、端切れや古布を繊維に再利用する技術の研究はまだまだ。古着や古布は日々生まれているし、端切れは服作りの中で必ず発生する。しかもその量は大量だ。これらを使うことができれば、資源を大いに増やすことができる。

端切れや古布を再び繊維に戻し、永続的に生地を循環させる方法をデザイン面から研究する女性がいる。デザイナーとして14年のキャリアを重ねた、ドイツ在住のAlice Beyer Schuchさんだ。

Further – textile rebirth catalyst」と名づけられたAliceさんのプロジェクトでは、「H&M」の財団が主催する初の循環型ファッション研究のアワード「Global Change Award」で、最多数票で受賞したフィンランド・アールト大学によるケミカルリサイクル(※)技術に着目。
 Aliceさんは、この技術で生まれた素材を使って服を製作し、再度100%リサイクル可能な服を作る実用的なデザイン手法を研究中だ。


アールト大学の協力の下、セルロース繊維のケミカルリサイクル素材を研究しました。そこで生まれる生地だけを使えば、再び100%リサイクルできる服を作ることが可能になると考えています。服が着られなくなったら、またケミカルリサイクルして素材に戻すことができるからです。そうすれば、永続的に素材を循環利用でき、資源の削減に大きく貢献できます。

アールト大学が開発したケミカルリサイクルの手法「Ioncell-F」では、まずコットンを細かく裁断。「Ionic Liquid」と呼ばれる塩分由来の融解液を使って、パルプに変化させる。そのパルプで用い、再びリヨセル繊維へと紡績。また糸として再利用が可能だ。

この技術はまだ実用の段階には入っていない。現在はコットンや紙を含むセルロース繊維のみケミカルリサイクル可能だが、この研究の最終目標は、消費者が使用した後に捨てられる服をリサイクルできるようにすること。

Aliceさんがデザインした服も、まだまだ第一段階といえる。現時点の技術では再利用する繊維の純度が大事なため、Aliceさんも染色・加工を控えてデザインしたという。

技術だけ発達しても意味がありません。デザイン手法だけ発達しても意味がありません。服を回収するインフラづくりも必要です。そのために教育も欠かせません。すなわち、業界全体で動かなければ、前に進めないのです。

そう話すAliceさんは、デザイナーとしてのキャリアのうち、2年を中国で過ごした。環境問題の深刻な同国で働くうち、「もう一歩先へ進みたい(Further)」という思いが募ったそう。そこで、エスモードベルリンのサスティナブルファッション修士コースへ入学。デザイン面から循環型ファッションの研究を始めたという。

ゴミの心配はもちろん、化学薬品の危険性、人権……いま問題視されるあらゆる心配をしなくていい産業に変わっていってほしいし、そうなれると信じています。

H&Mの財団・H&M Conscious Foundation主催の循環型ファッションの研究アワード「Global Change Award」とは?

ファッションの“ループを閉じる”先駆的なアイディアに対し助成金を授与するアワード。実用化に向けて研究を進められるよう支援する。2016年2月に、初のアワードセレモニーが開催された。

Website:https://www.globalchangeaward.com/(※英語)

Research supported by Aalto University, Finland / Image credits: Model Petra Vuletic, Photographer Giuseppe Triscari

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