大人気フェアトレード石けんを作った女性たちのものがたり――植田貴子さん(NGO・シャプラニール)

A Picture of $name Rie Watanabe 2015. 7. 31

バングラデシュ、ネパールの女性たちが作る、現地の自然素材を使った石けん「She with Shaplaneer」(シー・ウィズ・シャプラニール;以下、「She」)。

2011年5月の販売開始から、これまでに5万本を売り上げた。生産者はみな、夫が出稼ぎに行ったまま戻らなかったり、生活のために売春をせざる得なかった女性たちだ。石けんだけでなく、パッケージなど全てフェアトレードで作られ、女性たちの生活支援につながっている。

この商品の開発・販売を担当したのが、国際協力NGO「シャプラニール=市民による海外協力の会」(以下、シャプラニール)の植田貴子さん。「フェアトレードだからではなくデザインや香り、使い勝手から買ってもらう。それを目指したプロダクトだったんです」。

植田貴子(うえだ・たかこ)1975年東京生まれ。大学卒業後、半導体商社にて海外ビジネスに従事。2002年に退職し、国際協力NGOシャプラニールでインターンに参加後、正職員へ。主にフェアトレード事業を担当し、フェアトレードコスメブランド「She with Shaplaneer」の立ち上げに携わる。2013年からダッカ事務所駐在を経て、現在は国内活動グループチーフ。

植田貴子(うえだ・たかこ)
1975年東京生まれ。大学卒業後、半導体商社にて海外ビジネスに従事。2002年に退職し、国際協力NGOシャプラニールでインターンに参加後、正職員へ。主にフェアトレード事業を担当し、フェアトレードコスメブランド「She with Shaplaneer」の立ち上げに携わる。2013年からダッカ事務所駐在を経て、現在は国内活動グループチーフ。

インドで必死に生きていく人びと。彼らの役に立ちたい。

大学時代はラクロス中心の生活。ラクロスのために就職浪人をする予定だったが、偶然受けた半導体のベンチャー企業に採用された。さまざまな仕事を任され、海外出張も多く充実していたが、3年程働いたとき、意義が見いだせなくなった。そんなとき、植田さんの脳裏に浮かんできたのは、ラクロスがオフのシーズンに訪れたインドの人びとだ。

初めて子どもに物乞いをされ、10円程度の料金で自分の祖父と同年代の人にリキシャ(人力車)で運んでもらった。私が楽しい思いをしに来たその場所には、必死に生きていこうとする人たちがいたんです。

彼らのような人びとと直接つながり、役に立てるような仕事ができればと、会社を退職。海外事務所での仕事も経験できると、国際協力NGO・シャプラニールのインターンになり、2003年に就職した。

バングラデシュ初のナチュラルソープ。「日本で販売できないか?」

元セックスワーカーの女性たちが作る自然素材の石けんの試作品ができた。日本で販売できないか。

2009年11月、当時フェアトレード商品ブランド「クラフトリンク」の商品開発担当だった植田さんは、出張先のバングラデシュでパートナー団体からこう言われた。これは、米国のNGO・MCC(Mennonite Central Committee)によるもの。地元の自然素材を使い、まだ誰も開発していない商品を作り、女性の雇用創出を行うプロジェクトだった。

石けんを使った経験のある生産者はゼロ。しかし、自分たちの生活を変えたいと、インターネットや書籍で調べ、見よう見まねで試行錯誤を重ねていた。

ネパールの工房で、検品の様子。キズや汚れがないか確認しながら、石けんの表面を1点ずつ磨く。

ネパールの工房で、検品の様子。キズや汚れがないか確認しながら、石けんの表面を1点ずつ磨く。(© Shaplaneer)

「当時、クラフトリンクのチームには危機感があった」と植田さんは振り返る。シャプラニールがフェアトレードとして扱う手工芸品は、ここ数年世界的に見ても市場が伸びていなかった。

しかし不景気にも関わらず、オーガニック化粧品は売上を伸ばしていた。新規顧客獲得の狙いも視野に入れ、組織を説得。石けんの販売を決めた。シャプラニールの活動地であるネパールでもプロジェクトを実施することになった。

散々な評判だった石けんを変えた2つの力。

2010年7月、国内のフェアトレードショップスタッフ約20名に協力してもらい、石けんのモニタリングを実施。結果は散々だった。「『油臭い』『虫が入っている』『ヒリヒリする』と言われ、石けんを売ると決めなければよかったって思いました(笑)」と、植田さんは語る。

品質の改善を求めて、自然素材の石けん作りに約70年取り組んでいる太陽油脂株式会社の門を叩いた。自社の得意分野を生かした社会貢献に、「ぜひ、やりましょう」と社長が快諾。開発部の社員がバングラデシュとネパールの生産現場で技術指導を行った。

どうやったら石けんが売れるのか? ヒントを探すために参加したオーガニック商品の展示会で、植田さんは手島大輔氏に出会った。手島氏は、ゼロから立ち上げたオーガニック化粧品を2億円規模の一大ブランドにし、売り上げの一部をNPOへの寄付とするコーズリレーテッドマーケティングで年間1000万円以上を集めた人だ。

話を持ちかけると、「協力したい。ブランディングを一から考えましょう」という返事に勇気づけられた。

誰のためのプロダクトで、何のためにやるのか。

手島氏は本業の傍ら、国内の障がい者が作る商品の企画・販売支援を行うNPO・Sell the Challengeの代表を務めている。メンバーは経営や商品企画、デザインや広告のプロ。「誰のための、何のための石けんなのか」を考え、名前、形、パッケージをSell the Challengeとシャプラニールのメンバーで考えた。

「これは、石けんを作る彼女たちのためのプロダクト。『She』なんだ」と、名前は全員一致で決まりました。形は洗練されたイメージをと長方形に。パッケージは、「伊勢丹のBeauty Apothecary」に並ぶものを目指しました。オーガニック化粧品の成功のセオリーがここで販売されることなんです。

Courtesy of Shaplaneer ( © Shaplaneer)

(左2つ)生産国:バングラデシュ、原料:ベンガルハニー、レモングラス等。(右2つ)生産国:ネパール、原料:ヒマラヤハニー、チウリなど。パッケージには手すき紙が使われ、一つずつ手作り。今年11月にはお祝いに贈る「She HAPPY Soap」、来年3月には、感謝の気持ちを表す「She Thanks Soap」を販売予定。(© Shaplaneer)

2011年5月、念願の場所でデビュー。

2011年5月の販売初日、植田さんも店頭に立った。フェアトレードではなく、「デザインが良い」「香りが良い」と購入してくださるお客さまが後を絶たなかった。伊勢丹の販売員も評判を聞きつけ、買いに来た。卸売店への販売も開始。注文が相次ぎ、納期に間に合うか心臓が止まりそうになる日々だった。

売れた瞬間、ネパールとバングラデシュの生産者たちに『売れたよーーーー!』と大声で伝えたかったです。最も社会的に弱い立場にいる人びとをサポートするのがシャプラニールの方針。売れる商品ではなく、支援が必要な人たちが作るものを市場に出していくのは、生産者とのコミュニケーションを含め、とても苦労しました。

「She」2年目のイメージ写真の撮影風景。「(石けんの仕事をとおして)人生がうまくいきますように、花開きますように」というメッセージを、ネパールの生産者たちが花を空に舞い上がらせることで表現した。 (© Shaplaneer)

「She」2年目のイメージ写真の撮影風景。「(石けんの仕事をとおして)人生がうまくいきますように、花開きますように」というメッセージを、ネパールの生産者たちが花を空に舞い上がらせることで表現した。 (© Shaplaneer)

多くの女性に支えられ、多くの女性を変えた「She」

販売開始から今年6月までの売上は約3,870万円に上る。バングラデシュでは、プロジェクト開始時に3名だった生産者は25名に。賃金も5倍に上がった。ネパールでの規模としての成功はこれからだが、女性たちの多くが、自らの力で生きていけることに自信と誇りを持てるようになった。中には、自分と同じような境遇の人を助けたいと考える人もいる。

支援を「受ける側」から「する側」になるのは大きな変化。女性たちの生活がいかに変わるかが「She」の全てでしたが、お客さまの多くも女性で、本当に多くの女性に支えられています。

「自分が」ではなく、組織の「みんなで」、このブランドに愛着を持ってもらえるように心掛けていた、という植田さん。担当を離れて3年。「当時は1日中、Sheのことばかり考えていました。液体の方が売れるから、次はシャンプーをという野望も。また関わりたいですね」。

「自分が」ではなく、組織の「みんなで」、このブランドに愛着を持ってもらえるように心掛けていた、という植田さん。担当を離れて3年。「当時は1日中、『She』のことばかり考えていました。液体のほうが売れるので、次はシャンプーをという野望も。また関わりたいですね」。

She with Shaplaneer

Website:http://www.shaplaneer.org/she/

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